序章

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10歳の夏。松永ユーリは空に浮かぶ風船を眺めていた。ゆっくりゆっくり上昇していく水色のまあるい物体。 (私もあんな風に空へ高く高く舞いがりたい・・・) 「ユーリ、なにぼーっとしてるの。遊園地で遊びたいのでしょう?でもあなたさっきから文字通り、上の空よ」 ユーリは、妄想の世界に浸る一歩手前のところで呼びかけられ、はっとする。 「うわのそら?」 「周りの声が聞こえてないし見えてないってこと。ほら、ベンチでずーっと座ってるのは終わり、何の乗り物に乗りたいの?」 ユーリの母は、ユーリと一緒にベンチに座って彼女が自分の意思を伝えようとしてくるのを待っていたが、それも待ちくたびれたのでユーリを急かした。 母親は知っている。ユーリは自分の感情を表に出すのが苦手であること。だからユーリが遊園地に連れて行ってと母にねだったのはとても珍しいことだった。
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