第1章

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翌日の放課後。僕は四季との約束のためにあの住宅街に向かおうとした。 「佐鳥!」  また後ろから声を掛けられて振り返ると吉田さんがいた。 「どうしたの吉田さん」 「ちょっとお願いがあるんだ」 「またか」  思わずつぶやいていた。吉田さんは首をかしげる 「いや、こっちの話。で何?」 「二日前から弟と妹が家に帰ってきてないんだ。二人ともまだ小さいから心配で」 「二日も前からいないなんて普通に事件じゃないの? 警察には?」 「もちろん警察には話したよ。でもあんまり真剣には聞いてくれないんだよ。上村君も帰ってきてないみたいだし心配で」 「それで、僕にどうしてほしいの?」 「土手の近くにある住宅街知ってる?」 「もちろん」 「そこで二人を見たっていう話を聞いたんだ。だから一緒に行ってくれないかな? 私ひとりじゃ怖くて」  少し考えこむ。校舎に取り付けられた時計を見る。四季との約束までまだ時間がある。先に吉田さんを手伝ってもいいだろう。見つからなければ四季にも手伝ってもらおう。そう考えて吉田さんと一緒に住宅街に向かう。  今日も住宅街が静かなものだった。迷わず歩を進める。 「ちょっと待ってよ」  後ろを一生懸命吉田さんがついてくる。 「ごめん。ちょっと歩くの早かったかな」 「いや、随分手馴れてるんだね」 「よく来るからね」  僕の言葉に吉田さんの顔がこわばる。 「あ、あそこ!」  突然吉田さんが声をあげて一つの家を指さす。 「あそこの家に人影が見えた気がする。ちょっと見てきてくれないかな」  半信半疑で僕はその家に近づく。玄関の扉は開いていた。そっと中を覗く。中はかなり暗く目を凝らしても中は見えなかった。 「誰かいる?」  僕が声を出した瞬間襟首を誰かにつかまれた。首が絞められて息ができなくなる。そのまま室内に引きずり込まれて床に投げ捨てられる。  何度もせき込みながら息をする。肺に空気を取り込もうと必死になる。しかし、息が落ち着く前に思い切り腹を蹴り上げられた。吸い込んだ酸素が再び吐き出される。 「よくやった」  玄関の扉に隠れるようにしている吉田さんに僕を蹴り上げた男が言った。 「あんた誰だよ」 「あ、教えてやる必要があるのか?」
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