第1章

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「じゃあ、帰りのホームルームを始めるぞー」 教壇にたった先生が手を叩くと思い思いに散り散りになっていた生徒たちがわらわらと自分の席へと戻る。 「もうすぐ冬休みになるが、最近この辺りで不審な人物がうろついているという話があるから、帰り道に知らない人に声をかけられてもついて行ったりしないように」 「先生ー。俺たち子供じゃないんだからついて行ったりしないよー」  クラスの中のおちゃらけた奴が先生の連絡事項に茶々を入れる。 「中学生はまだ子供だ」  先生は肩をすくめて言う。確かに僕たちは一年前まで小学生だったのだ。子供と言われても仕方がない。先生はすぐに明日の学校行事の話に切り替えてホームルームを進行する教室の中はまだその不審人物の話題で盛り上がっていて騒がしい。結局そのままホームルームは終わり、帰りの挨拶をクラス全員でして解散となった。 「じゃーな。佐鳥」  クラスメイトの島村が僕を追い越しながら言った。 「ああ、また明日」  僕が返事をした時には島村はすでに階段を駆け下りようとしていて僕に手だけ振り返した。 「男子って本当に元気だよねー」  横に並ぶようにして同じくクラスメイトの吉田さんがつぶやいた。おそらく僕に話しかけているのだろう。 「まぁ、島村は特にね」  サッカー部で明るく社交的な島村は基本的にいつも何かを話しているか動き回っているイメージがある。 「佐鳥君はもの静かなのにね」  はは。と笑う。 「僕はあんまり社交的じゃないからね」 「でも、私は佐鳥みたいに物静かなほうが好きだよ」 「はは。ありがとう」  吉田さんの言葉にどきりとする。別にそういう意味ではないだろうと分かってはいても顔が赤くなってしまいそうだ。 「私は吹奏楽があるから」  昇り階段に足をかけながら言う。 「佐鳥は部活なんだっけ?」 「帰宅部だよ」  本当は美術部なのだけれど、部員は僕と部長の二人しかいない。そして、活動は個人的に行う為、ほとんど部活として活動はしていないに等しかった。 「じゃあ。また明日」 「また明日」  吉田さんと別れて階段を下りる。グラウンドではすでに運動部が準備体操をして声出しを始めていた。グラウンドを突き抜けて校門から学校を出る。学校から離れるにつれて辺りはかなり静かになっていった。
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