第1章

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 褒められているのだろうと思うと少し照れ臭かった。 「四季はどうしてこの町に来たの? この町の人じゃないよね」  四季の表情が硬くなる。 「ちょっと人探しを頼まれて」 「人探し?」 「そう。佐鳥は最近この辺りで行方不明者が出ているのはしっていますか?」  そういえば先生がそんな事を言っていたような気がする。上村も昨日から帰っていないらしい。 「ちょっとした家出じゃないの?」  この辺りは昔からたまにあるのだ。突然行方が分からなくなった子供が。でもだいたいしばらく後に近くの都市で保護されているらしい。こんな何もない町から飛び出したくなる気持ちは少しわかる気がする。 「本当にそうならいいんですけどね」  僕の説明に四季は顔をしかめる。その表情も綺麗だった。 「どういうこと?」 「その家出したって子が後で保護されたって話ですけど、保護された人を見たことありますか?」  それはもちろん。と答えようとしてふと考え込む。確かに保護された人たちをその後この町で見た覚えはなかった。てっきりまたすぐに都市に出て行ってしまったんだろうと思っていたけれど。 「私はそれを調べにきたの」  まさか本当に誘拐とでも言うつもりなのだろうか。こんな片田舎でそんなことが起こっていると? 「分かりません」  空気が重くなる。僕はその空気から目をそらすように部屋の中を見回す。 「あれ?」 「どうしたんですか?」 「いや、昨日新しく迷い込んできた動物が二匹いたんだけど、今日はもういないみたいだ。出て行っちゃったのか」  残念と思う。 「出て行ったとしても佐鳥の優しさは伝わってると思います」 「そうだといいけどね」  言って、僕は立ち上がる。空き家を出て辺りをもう一度見て回ってみるが特に手がかりになるようなものは見つからなかった。 日も沈んで暗くなってきたので今日はもう帰ろうということになった。 「明日もこの辺りの案内を頼んでもいいですか?」  四季が提案してくる。 「僕は別に構わないけど」  どうせ餌をやりに来るのだ。 「では、お願いします」 「じゃあ、また明日」  言って踵を返して家路につこうとすると四季に呼び止められた。 「……佐鳥。気を付けてください」 「何に?」  僕は心底不思議そうに首をかしげる。 「いえ、いいんです」  そう。と呟くと僕は今度こそ家路についた。
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