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顔面を蹴り飛ばされて床に転がる。何度も何度も背中と腹を蹴り飛ばされて部屋の壁にぶつかった。暗闇に少しずつ目が慣れてきたころ反対側の壁に固まりが転がっているのが見えた。いや、あれは上村君か。
「昨日の奴はちょっともろすぎたからな。お前はせいぜい頑張ってくれよ」
いつの間にか手に持っていた金属バットを僕の肩に押し付ける。肩に激痛が走った。
「なん……で。こんなことをするんですか?」
僕はとぎれとぎれに言葉を紡ぐ。吉田さんは怯えた目でこちらを見ているだけだ。吉田さんとこの男の関係はよくわからない。親子だろうか? でも、明らかに吉田さんの態度を見ると脅されているといった感じだ。
「俺はお前みたいに幸せに暮らしている奴が嫌いなんだよ。はっ。自分のどこが幸せかわからないって顔してやがるな。そういうところが幸せでムカつくっていうんだよ。本当に幸せな奴は自分が幸せなことにすら気が付いていないんだ」
金属バットが内腿に振り下ろされる。全身に電流が走る。体験したことがないような激痛だった。苦痛に表情が歪む。それを見て男の顔が愉悦に染まった。
「ふっ」
僕は笑った。その態度が気に入らなかったのか無言で反対の内腿をバットで殴る。
「浅はかだねぇ」
「あ?」
男が露骨に怪訝な顔をする。
「幸せなんて相対的なものでしかないでしょうに。あなたが言っているのはただの嫉妬でしょう。自分が不幸だから幸せそうにしてるのを見るのがつらいだけでしょう。自分は不幸なんだ、もっと自分を見てくれ。もっと自分のことをみてくれたっていいじゃないか。そういっているのと同じでしょう。ただの構ってほしいだけの子供でしょう」
「お前、自分の状況分かって言ってんのか?」
「もちろん」
金属バットが右頬を打ち抜く。バキリと音がなって奥歯が折れた音がする。
「ひっ」
入口で吉田さんが小さく悲鳴を上げる。
「本当に浅はかですねぇ。あなたはこんなことをしたって何一つ満足しなければ満たされたりなんかしないのに、それすら気が付くことができない」
「手前に何が分かるっていうんだ。人間は生まれた時から不公平だろうが」
「ふっ」
僕は再び笑う。
「あなたは世界が嫌いなんでしょう?」
「当たり前だろうが。お前みたいな奴には分からんだろう」
「浅はかですね。あなたは世界のこと好きで好きで仕方がないんですよ」
「あ?」
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