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コツリコツリと近付いてくる足音。
抱き締められたままで聞いて、ハタと我に返った。
「--------っ、ヤバ」
自分は今、どさくさに紛れてなんと言っただろう。
そして今の今まで、何を思っていただろう。
愛しい? 教師の自分が、生徒に? しかも、学校の中で?
じゅんぐりに考えを巡らせた後で、自分を抱き締めていた相沢を突き放した。
「ヤバイってオレ! 何ほだされてんのっ」
「……ともや?」
「それも!! ヤバイって! 今どこにいると思ってんの!?」
あぁぁぁぁぁ、と頭を抱える自分を、相沢は小さな苦笑で見つめてくる。
「かわいーの」
「バッカ! そんな状況じゃないでしょ!?」
「大丈夫だって。なんとかなるよ」
何言ってんだよッ、と半泣きで見つめる先で、相沢はにっこり笑った。
「なんとかなるよ」
その笑顔で言われると、ホントになんとかなりそうな気がすると、一瞬思ったのは内緒にしておく。
「バレなきゃいーんだから。大丈夫だよ」
「……」
「心配性なんだから、朋弥は」
やれやれ、と大人びた表情で呟かれるのが何となく癪で。
「校内でその呼び方禁止ね。たとえ二人っきりでも」
それだけ言い置いて、さっさと教室を出る。
「待ってよ、とも----先生」
僕らの新しい始まりだった。
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