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『赤井朋弥が、相沢晴明を好きか嫌いかを、聞かせてよ』
なんてコトのない、いつもと変わらない放課後に。
だけど相沢が泣きそうな顔で叫んだあの日。
酷く痛い胸と、嬉しくて震えてた胸の奥。
バカみたいだけど、自分でもオカシイと思ったけど。あの瞬間、オレは自分の立場も忘れてた。
教師なんかどうだっていい。
今目の前にいるコイツと、一緒に。いつまでだって一緒にいたい。そう思った。
とっておきの魔法を見せてあげようかと、言った相沢の魔法にかかって、本気で相沢に堕ちたあの日から随分経った。
今でも、あの時の魔法は解けずにいる。
これから一生、解けないでいて欲しいなんて願いながら、相沢の腕の中で眠る日々。
バカみたいに幸せで、だけど酷く儚く思えて、不意打ちで襲ってくる淋しさを。
相沢は、いつでも優しく包んでくれた。
「魔法、かけてあげる」
そう言って、キスをくれる。
その後で唇は、首に触れて肩に触れて。
胸を辿って、腰を吸って、痕を残していく。
オレ達の始まりになったその言葉は、今でも始まりの合図になってる。
キスの始まり。
夜の始まり。
全ての始まりの前に、相沢もオレも、照れくさく使う。
「魔法、かけてよ」
いつまでだって効力の消えない、強い魔法を。
繰り返し繰り返しオレにかけて。
そう呟いて、腕を伸ばして。
触れた熱の熱さに溺れて。
言葉だけの薄っぺらい魔法に縋り付くオレ達は、もしかすると弱いのかもしれない。弱くて弱くて、情けないのかも知れないけど。
だけど。
「……幸せの魔法なんだよ」
ぇ? と顔を上げた相沢に、ゆっくりと笑いかける。
「……魔法かけてキスしたら幸せになれるんだから、しょうがないと思わない?」
そしたら相沢は、そうだねって、いつも通りの顔で笑ってくれるから。
「じゃあ、幸せの魔法、かけてあげるよ」
始まりの合図。
今日もまた、長い夜が来る。
長い長い、幸せな夜が。
「……一生、オレに魔法かけてね」
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