32人が本棚に入れています
本棚に追加
抜き打ちの小テストがあった。
配られたA4のプリントは、何度見ても覚えのない問題ばかりで。
始まるまではブツブツ言ってたくせに、周りは静かに、けれど確実にペンを走らせていた。
(どーしよ)
窓から外を眺めて、溜息を一つ。
手に持っていたシャーペンを、くるりと一回転させてから、溜息をもう一つ。
そこまで馬鹿じゃないと思ってたけど、自分も案外馬鹿だったか、なんて妙な悟りの境地に陥っていれば
「こら」
不意に小さな声で笑うように怒られて、ギクリと肩が揺れた反動でシャーペンが落ちた。
固まったままで見つめていれば、ホントに微かに悪戯めかして笑った先生が、ゆっくりとかがんでシャーペンを拾い上げて机の上に置いてくれる。
「頭は使うためにあるんだから」
ちょっとは考えてみ? と優しく微笑われて、渋々問題に目を落とした。
それを見た後で、よしよし、と満足そうに笑った先生は、ゆっくりと席を離れていく。
気配が離れていくのが寂しくて、今度は別の意味で溜息を吐いていた。
もっと近くに来て欲しい。
誰にでも向ける笑顔じゃなくて、オレのためだけに笑顔を向けて欲しい。
すたすたと、教室の中を歩く音を聞きながら、今度こそコトリとシャーペンを置いた。
白紙のテスト用紙には、自分の名前だけが書いてある。
もっと構ってよ。
そんな想いを込めて、答案用紙に書き加えた文字は----。
最初のコメントを投稿しよう!