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(……偉くなったもんだよな……)
ぼんやりとそんなことを考えながら赤ペンを走らせる。
抜き打ちでやったテスト。
学生時代に嫌だと思っていたことを、平然とやる。
それがたまに、どうしようもなく虚しく思えたりもするけれど。実力を知るには一番手っ取り早いと考えてのことだった。
静かに採点をして、名簿に点を記入して。
次の採点に取りかかった時だ。
潔く白紙のプリントの、ど真ん中。
『好きな人はいますか』
癖のある字で、そう一言。
思わずマジマジとテスト用紙に見入った後で、名前を確かめる。
(……相沢晴明……)
その名前に、あぁ、と思い出すのは、窓の外を見つめる透明な瞳と、綺麗な茶髪。
女子に人気の、だいぶキレイな顔した生徒だった。
意外に真っ直ぐ人を見つめて、そして意外にアツイ。
ただ、なんとなく大人びた雰囲気を醸し出す時もあって、そのギャップが面白いと感じたこともあった。
(……好きな人、ねぇ……)
いないよなぁ、と寂しいことを思い浮かべつつ、名簿に“0”と記入する。
後でまた話をしてみようと思いつつ、次の採点に取りかかった。
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