32人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃ、こないだのテスト返すよー」
ひらひらとプリントを、顔の横で扇ぐように揺らしてみせる姿は、とても教師には見えなくて、どっちかと言うと学生みたいに見える。
まぁ新任だし、23だし。しょうがないっちゃしょうがないのかもしれないけど。
ぼんやりと頬杖ついた姿勢で教壇に立つ姿を見つめていれば、不意にこちらを向いた瞳と、ばっちり視線が合わさって。
その瞳の綺麗さに思わず胸の奥が跳ねたけれど。
彼はメッ、と小さな子供を叱るような目をして、視線を逸らした。
(……なんだよソレ……)
笑ってくれても良いのに。
苦笑だって良かったのに。
でもなんでかな。めちゃくちゃ可愛いとか思えたのは。
やっぱりあれかな。オレはあの人が好きなのかな。
ぼんやりぼんやり、そんなことをツラツラ考えてると、
「相沢」
「ッ」
彼が、友達でも呼ぶみたいな音で、オレを呼んだ。
「何してんの。早く取りに来る!」
「ぁ……はい」
早く早くとせかす姿は、やっぱり友達を呼んでるみたいな気安いノリ。
なんとなく慌てながら受け取りに走った後で
「今日の放課後、職員室に来てよ」
「へ?」
こっそりと耳打ちされて、キョトリと見つめた後に、彼が怒ってるような笑顔を浮かべた。
「こんなコトしたんだから、予想くらいしてたでしょ?」
とんとん、と細い指が叩いて示すのは、白紙で出した答案用紙で。
こっくりと素直に頷けば、ふふ、と小さく笑われた。
「素直でよろしい。じゃあ次ー」
えっとー、と名前を確認する姿から無理矢理に視線をはずして、自分の席に向かう。
その間中、胸の奥が鳴っていたのは気付かないフリをした。
*****
最初のコメントを投稿しよう!