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グラウンドの隅にあるベンチに、ぽつんと誰かが座ってるのを見つけて職員室を出る。
今はテスト前で、クラブ活動は停止中。生徒の殆どがもう下校しているはずの時間だった。
そんな時間に、しかも所在なさ気に座ってる姿がなんとなく気になって、グランドを歩いて行くうちに、その生徒が彼であることに気が付いた。
「朋弥? 何してんのこんなトコで」
「ぇ? あ…………----うん、なんでもない」
「なんでもなくないでしょ、そんな顔してさ」
何があったの、となるべく普段通りを装って聞いてみても、別に、と儚く笑うばかりで。
「だから、嘘吐くなってば」
「うるさいなっ」
笑おうとした途端に、悲鳴じみた声が遮って。おそるおそる覗き込んだ顔は、何かを堪えるように唇が引き結ばれている。
「…………ともや?」
「な、んだよっ……オレのことなんかっ、なんも! 知らないくせにっ……嘘つくなとか……そんな知ったようなこと言うなよっ」
「なに、言って……」
き、と力無く睨む目に、光るモノを見つけた気がして、言葉を上手く見つけられなくなった。
「こぉじくんの方がっ……なんでもオレのこと、知ってるハズなんだからっ」
「…………こうじくん?」
「なのになんでオレっ……」
「……朋弥? ちょっと落ち着いて……」
「うるさいよっ」
吐き出すように呟いた朋弥の目から、今度こそ間違いなく雫が零れて。
「ともや……」
「オレっ……なんでオレ……ずっと傍にいてくれたのに……なんで……っ」
「…………櫻木、と……なんかあったの?」
「………………オレ、は……」
そこまで呟いた後で、脇に放ってあった鞄をひっ掴んだ朋弥は、何かから逃げるようにして走っていってしまう。
「……ともや……?」
急な行動に後を追うことも出来ずに。
キョトンと立ち尽くすしかなかった。
「………………マジかよ……」
全てを聞いたオレがそう呆然と呟いたのは、その数日後。
どこからどう見ても優等生の顔をしてないアイツが、心底嫌そうに口を開いてからだった。
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