♯10

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「私は片手剣と盾を」 「俺は自前の木刀で」 ナンシー先輩は侍女から片手剣と盾を受け取った。 広場の真ん中に寄り一礼をする。 「では…行きます!」 盾を俺の顔に突き出し剣で脚を狙ってきたが、後ろに軽く飛び躱すと共に上段から木刀を振り下ろす。 ガンっ 盾を頭の上に向けて防いだ。 その間にもナンシー先輩は突きを放ってきた。 休むことのない攻防。 しばらく打ち込み合いが続くが、ナンシー先輩が距離を置き息を整える為深呼吸した。 かなり汗をかいている。 「悔しいですわ…本気で行っているのに…全て防ぎ汗一つかいていない…まだ本気じゃないのね」 「ナンシー先輩は効率よく動き、最短の距離で攻撃することにより相手を翻弄する戦い方…素晴らしいです。しかし俺はもっと速い相手と手合わせしたことありますから」 「ちょっと悲しいわね…。学園で三年間優勝した実績が霞むわ」 「の割には楽しそうですね」 「ふふっ…認めるわ。今凄く楽しい!強い相手と本気で闘える!」 まさか…バトルジャンキーなのか…? ナンシー先輩の怒涛の斬撃が来るが、流れる風の如くフワリフワリと躱した。 「はぁ…はぁ…私…身体強化している…のに…貴方は…していない…でしょ?」 「そうですね。まだ一割の力も出していません」 「くっ…悔しくて泣いちゃうわよ…」 「そしたら次は胸をかしますよ」 「ふふっ、でも…久々に動けて…スッキリしたわ」 ナンシー先輩のあどけない笑顔は可愛かった。 「素敵だ…」 「えっ?」 「あ!いや…その…笑顔が…その…」 「えっ…あ…その…ありがとう…」 お互い俯いてしまった。 侍女は俺達のやりとりに微笑んでいた。 「さっ、体がお冷えになります。お嬢様、伯爵様。こちらのタオルをお使いください」 侍女がタオルを渡してくれた。 「ありがとうございます。助かります」 「いえ。これからもお嬢様をよろしくおねがいします」 「はい」 その時… 「お前が新しい王国の領地の領主だな」 屋敷の方からごっついおっさんが歩いてきた。 顔や太い腕には幾つもの古い傷があり、若き頃に戦いを経験したことを窺わせる。 「はい。ユウヒ・イチミヤ・ドラグーンと申します」 深々とお辞儀をする。 「ふん…若造がどのように兄に取り入ったかは知らぬが…出る杭はいつか打たれる」 「はっ!肝に銘じます」 「ふんっ。だがしかし少しはやるようだな…わしと少し遊ぶか?真剣でな」 「御父様!」 「ナンシー、お前は下がっていろ」 フロスト公爵…漂うオーラが違う。歴戦の将のようだ… 公爵は槍を手に立つ。 「そうだな…わしに勝てたら褒美をやろう。負けは死を意味するがな」 「わかりました。では私が勝てばナンシー様を大事にしてください。ナンシー様はこの領地の為に役立とうとしているのです」 「…勝って言え若造。それに嫁ぎ先も決めてある」 「御父様⁈私は…」 「黙れ。わしはここの当主だ。わしに若造が勝てたら…そうだな…お前を自由にしてやる。若造が負ければお前は諦めこの領地の為に嫁げ」 「そんな…」 倒れそうになったナンシー先輩を侍女が支えた。 「若造、始めるか?」 「いつでもどうぞ…」 「そんな木の棒でよいのか?」 「十分です」 公爵の額に血管がくっきり浮いた。 いや、俺としては一撃で終わらせたくないから木刀のままなんだよ。 「行くぞ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 公爵はダッシュして向かってくる。そして体を回転させ横なぎに槍を振る。 俺は槍に合わせ態勢を低くし槍より低い位置を通り過ぎ脹脛に一発打ち込む。 「ちっ…調子に乗るなよ」 連続の突きを避け、突き出された槍を掴み木刀を前に突き出した。 鳩尾に入り槍から手を離し悶え苦しむ。 「公爵、終わりでしょうか?」 公爵は観念したかのようにその場に座った。 「はぁ…はぁ…何が望みだ…」 「先程言った通りです。公爵の手助けをしようとするナンシー様を無下にしないでいただきたい。それだけです」 「……無駄だ…この地にはもう希望がない。私が目先の利益にとらわれ、家族を…民を犠牲にしてしまった…」 「いえ。そんなことはありません」 「どういうことだ?」 「俺の領地の技術を取り入れてもらえば、産出される鉄を用いて富を手に入れることができます。それに領地を細かく見てまわれば見落とした原石を発見できるかもしれません」 「…なるほど…。公爵のわしに取り入って貴族の中でも優位に…」 「勘違いしないでいただきたい!!俺はナンシーが心配なだけだ!公爵のコネ?そんなものいらない!自惚れるな!俺は自分と家族の力を借りて今の地位まで登り詰めた。一人ではできなかった…。一人では…限界があるんだ…」 「伯爵様…」 公爵に近寄り膝を着く。 「どうかお願いです。家族を大切にしてください…お願いします…」 公爵はしばらく俯き、顔を上げた。 「ふむ…確かにわしは自棄になっておった…。すまぬが立たせてくれ…」 「はい!」 ナンシー先輩も寄ってきて、公爵の両脇に手を入れ支える。 「お茶を一緒に飲まないか?」 「是非いただきます」 侍女は泣きだしそうな笑顔で俺達を見ていた。
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