♯10

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「そうか…」 「それに私は命の女神様の使徒です」 シュン ソファーから応客間の入口まで移動した。 「一瞬で来ることもできます」 「な、なんと⁉︎」 これには公爵様とナンシー先輩も驚いていた。 「ただ…あとはナンシー様のお気持ちを聞かせてほしい。私は民のことを考え動く心優しいナンシー様に好意を抱きました…。無理強いはしません…断っていただいても構いません。駄目でも大切なお友達としてこのフロスト領の発展にご協力は惜しみません」 「…はい…。答えは出ています…」 ナンシー先輩は公爵様を見つめ… 「私はユウヒ・イチミヤ・ドラグーン様を好きです…好きになってしまったのです…。初めて…殿方を好きになりました…」 まじか…。初恋の相手が重婚者とは… 「そうか!めでたい…伯爵殿…娘をこれからよろしく頼む…」 フロスト公爵は俺に頭を下げた。 「はい!ずっと大切に…命を掛けて幸せにします!」 「うむ…。久しぶりの吉報だ…」 ナンシー先輩の横に座り… 「俺と一緒になってください」 「…はい…」 そっとナンシー先輩の手を握ると、優しく握り返してくれた。 「公爵様」 「何かな婿殿?」 おう⁉︎伯爵から婿殿に呼び方がすぐ変わるとは… 「この後のご予定は空いていらっしゃいますか?」 「うーむ、少し待って…」 トントン 扉を開け侍女が入ってきた。 もの凄い笑顔だ… 「当主様のご予定はありません。勝手ではございますが、農地の視察でしたので代わりを手配させていただきました。しかししっかりと見聞し記録に残すようお伝えしております」 たぶん執事か何かを使いにやったのだろう… 「そうか…」 「ですのでナンシー様とご一緒に過ごす時間にしていただけないでしょうか…。そして…当主様に意見したこと…深くお詫びいたします…私は如何様な処罰もお受けいたします」 侍女は深々とお辞儀をした。 「よい。リラよ…気を遣わせすまなかったな。ありがとう」 「…っ⁈いえ!私は…」 リラと呼ばれた侍女は口を手で押さえ、驚き…嬉しそうな顔をしていた。 「お前は良くできた侍女だ。お前にも今まで冷たくしていた…。なのに…ナンシーが十歳の頃だったか…お前がナンシーの侍女となり…今まで…よく…辞めずに、働いてくれてありがとう。ナンシーの傍にいてくれてありがとう」 フロスト公爵は…本当は…いい父親なんだろうな… 「勿体無い御言葉…深く心に染み入ります…」 「すまないな…本当ならリラも既に結婚していてもいい歳なのに…。こんな当主だから…ナンシーのことが心配だったのだろう…」 「そんなことありません!私は十六で屋敷に入りました…。働き口もなくボロボロの服を纏った私を…迎え入れてくれたこのフロスト公爵家を、私は微力ながらも支えていきたかったのです」 「ありがとう。我が屋敷には勿体無い程の侍女だ…」 「私はこれからも当主様、ナンシーお嬢様の為に忠誠を誓います」 「リラ…ありがとう」 ナンシー先輩の目からは大量の涙が… 「うむ。しかし…いい人を見つけたら逃したら駄目だぞ?」 「…はい…しかし…出会いはありませんから…」 幸せ満開の顔から一転…影を差すような顔に… 「そ、そうか…」 すると何を思ったのか公爵様は俺の方を向き…小さな声で… 「…もう一人…この屋敷で…娘と一緒に…リラは妾として」 いや…それは… 「御父様!」 「はい!」 「良い考えですわ!リラは私の姉のようなものですから、私も安心できます」 いいのか…。 「あの…」 三人の会話が聞こえないリラは不安になっているのか、小さな声で呼んできた。 「リラよ、娘の婿殿をどう思う?」 「はい。とてもお強く、優しさに溢れたお方に見えます」 「結ばれるとしたら?」 「それは心踊……はい?」 「いや、話あってだな…ドラグーン伯爵が其方をナンシーと共に貰ってもいいと」 いや、俺はまだ何も言ってない… 「…えっと…私もうすぐ二十六歳で…年上ですよ…」 もうどうにでもなれ! 「俺じゃ駄目ですか…リラ?」 キュン!  「いえ…」 「よろしくリラ」 「はい…不束者ですが…お願いいたします…」 「よし!さあリラも婿殿の隣に座りなさい」 「え?ええー!」 なんだかんだで公爵様に無理矢理座らせられたリラ。 「…話は戻しますが…今から我が領地にお連れします」
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