♯10

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四人でスフィアに飛んだ。 フロストの屋敷は筆頭執事に任せてある。 「ここも私が来た時には、街の形はありましたが廃れた所でした。しかし一年の内に整備計画を立て、壊し作り直しました」 立て直すにあたっては、昔のイタリアの建物を参考に白壁とした。また下水道も街全体に張り巡らせ、街中に汚物を捨てさせないように厳しく取り締まった。 ゴミの分別も取り組み、生ゴミは農地の肥料に加工して使用している。 「まず始めに、鉄鉱石を溶かす為の設備をお見せいたします」 街の隅にある工業地帯。 真ん中に二つ大きな煙突を持つ反射炉が設置されている。 「耐火煉瓦を用いた反射炉になります。この街の工業に欠かせない物です。不純物を取り除き溶けた鉄はこの穴から排出され、事前に予約されていた周りの工房の作業場へ運ばれます」 「なるほど。だから炉の周りに円を描くように建物があるのか」 「はい。そして反射炉は近々あと二つ完成し四つの炉で鉄を生産していきます」 目の前で赤白くなった溶けた鉄を運んでいく作業員。工房までいくと木枠の真ん中の穴に注ぎ込む。 木枠の中に鋳物用の土が入れてあり、鉄が冷えたら枠から土を剥がし固まった土を崩せば鉄の塊がでてくる。 「フロスト公爵の領地でこれを用いれば、純度の高い鉄を加工し付加価値をつければ今までより利益が出るでしょう」 「さすが婿殿!しかし…技師が領地にはいないのだ」 「御安心ください。こちらから技術を身につけた者を講師として派遣いたします。しかし、当方も最近導入したばかりですのであまり期待はされないでください」 「いや、全く技術のないフロスト領にはとても頼もしい。建てるとしたらどれくらいの期間を?」 「私が直接行きますので…まぁ一日もあれば…」 「なる……? いやいや⁉︎このように大きな物だぞ⁈」 「一基完成したものを持って行くので大丈夫です。ですのでそちらを使用しながら、もう一基を建てるようにしましょう。ただし…この高性能の炉を使用しているのは現在、ドラグーンだけです。他の国から見れば喉から手が出る程の技術。管理には十分に気をつけてください」 「わかった。私兵を交代で警備に付かせよう」 公爵様の後ろを見れば、ナンシー先輩とリラが嬉しそうな顔をしていた。 「どうしたのですかナンシー先輩…様…?」 「ふふっ、もう他人のような呼び方はしないでください。これからは名前で呼んでください。あと堅い口調も無しです」 「わかった…。で、ナンシーか凄く嬉しそうだったから…」 「ええ。今リラとも話していたのですが…こんなに活力に溢れた御父様は久しぶりですので」 「ん?わしか? まぁ…そうだなぁ。確かに今凄くワクワクしておる。婿殿の領地の技術を提供してもらえるのであれば、長年苦しんできた財政を立て直し民の暮らしを改善できる。それに雇用も増え安定した暮らしがおくれ…子供も増え、明るい街になる。そう考えると楽しくて仕方ない」 「公爵様、良きお顔になってますよ」 「そうか!婿殿のおかげだ」 「伯爵さ…いえ…あなた…」 恥ずかしそうに言うナンシーに悶えそうになった。 「保育園でしたか?あの施設も拝見したいのですが」 「わかった。それでは保育園以外にも気になったものがあれば、気軽に言ってください」 こうしてスフィアの公爵様による視察が始まったのだった。 昼 俺は酒場のおばさんが営業している店にやってきた。 「やぁ兄さんいらっしゃい。久しぶりだねぇ」 「久しぶり!今日も盛況だね」 昼は食堂として街の人の胃袋を満たしている。 お客さんがこちらを見れば「領主様こんちはー」と元気に挨拶してくれた。 「ははっ、あんたのおかげさ。おっと…そちらは?」 「ああ、街の視察に来て下さったフロスト公爵陛下です」 「……」 一瞬店内が静かになり… 「「「「「えぇぇぇぇ⁈」」」」」 と驚きの声が上がったのであった。 「に、兄さん!あんた馬鹿なのかい⁉︎こんなむさ苦しいとこに、高貴なお方を!」 酷い…ここの領主に向かって馬鹿とか…いじけて泣いちゃうよ… 「いや、よい。其方達の領主がお気に入りの店があるからと連れてきてくれたのだ。それにわしは、このような賑やかな雰囲気は好きなのだ。昔は良く城を抜け出して騎士団の若い奴らと食べにいったしな。しかし羨ましいな…わしも民とこのように気兼ねなく話せるようになりたいものだ」 「なりますよ。これからフロスト領は賑やかに。あっ!おばさん、どっか席空いてる?」 すると目の前の客がバッと立ち上がった。 「領主様!俺達食べ終わってるんでどうぞ!」 「ありがとな」 「領主様ももっと偉くなって、俺達が領の民であることを鼻高く話せるようになってくださいよ!」 「お、おう…。まぁあんま期待すんなよ…」 「またまたぁ。それじゃ!おばちゃん会計!」 「誰がおばちゃんだい!お姉さんと言いな!」 給仕がテーブルの上を片付けてくれた。 席に座ると給仕に「おばさんのお任せで」と伝える。 「ナンシー様!あの女性の着ている服凄く可愛くて…それに動きやすそうです」 「本当ね。リラにも似合いそう」 二人は先程の給仕を見て話していた。 「ああ、あれはこの店のおばさんに世話になっていた俺の嫁の一人が作ったんだ」 「そうなんですか!主様の奥様は凄いです」 「リラももうその一人になるからな」 「⁈ そ、そうでした…。私だけ…平凡そうです…」 「そんなことはないですよ。リラの頑張っている姿を私はずっと見てきていますから」 「俺も今日初めてあったばかりだけど、リラの優秀さはわかったよ」 「あ、ありがとうございます」 「それに嫁の中にも平民の出はいるから、何も気を張ることはないさ。レイナやフラウ…リスナ伯爵の娘のシェリーやアイラ、それに森の王国の女王アクアも大の仲良しだよ」 「…何か…凄い名前がいくつも…」 「食べ終わったらレイナ達に会いにいこうか」 「そうですね。挨拶をしに伺いましょう」 「だな。わしも久しく会っていない。楽しみだ」 「御父様、お二人は私から見ても凄く綺麗な女性になっていますよ」 入浴剤や化粧品を使ってるしな… 「そうか!婿殿と愛し合っているからだろう」 あー…俺の馬鹿……公爵様の方が紳士だ… 「はい!おまち!」 テーブルには食欲をそそる匂いが… 「私の特別メニューさ!女性も食べやすい物も作ってるから、たくさんお食べ!」 「いっただきまーす」 おばさんの料理はどれも美味しく、四人とも手が止まらなかった…
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