食べ残した殺意は責任をもって処分しましょう。

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 生まれてこのかた、一度もあげたことのないような高音が飛び出した。喉の底で地鳴りが響くような、弾けるような振動が頭の中を回る。回る。  それを悲鳴と呼ばれるものであると気が付いたのは1秒後だった。  天空高く放り投げられたその体は、重力の導かれるままに地面に向かっていた。まるでそのまま地獄へと直行するのではないのかとさえ思ってしまうような勢いだ。  誰か。助けてあげて。  そんな言葉を発そうと口を開いたところで、私以外が差した「誰か」に「私」が含まれていないことに気が付いた。  結局、第三者なんてどうでもいい。自分の命が一番大事。  関心という仮面をかぶった無関心2足歩行生命体の群衆こそが、その縮図こそが私たちであることに絶望し、私はついに目をつむって踵を返した。見えない人とぶつかる肩は強引に振りほどく。  イメージで飛び跳ねる血しぶき。一層燃え上がる悲鳴。誰かの電話をする声。  イメージで映る誰かのSNS発信。自殺に立ち会ったなう。  この地点から世界に飛ばされる電波。世界を覆う、好奇と無関心。心の傷は癒えないから、みんな見えていない埋め立て地へ向かう。そこが満杯になったころ、体も心もビルの屋上に導かれる。重力に殺されよう。衝撃に体を預けよう。そんな誰かの吐いた毒を、私は拾い上げてコーヒーに混ぜる。  私はスマートフォンでSNSアプリを開き、母親に「今から帰るね」と打ち込んだ。  真冬の昼は晴天で、暖かくて寒い。穏やかでグロテスク。
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