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朝の君は、少しだけ騒々しい。いつも遅刻ギリギリで教室に駆け込んでくる。
前までのオレならきっと、君のそんな姿にこっそり苦笑して終わってたけど。
「……おはよ」
今日は、そっと。少し躊躇いがちにそう声を掛けてみる。
そしたら君は、一瞬キョトンとしてから、辺りをきょろきょろ見回して、オレに気付いてにっこり笑い返してくれた。
「----おはよ」
教室の中が一瞬ざわめきを消したように思ったのは、きっとオレの気のせいなんかじゃない。
だけど君はそんなことは気にも止めずに、自分の席にすたすた歩いていって。
後はやっぱり、話しかけてくるなってオーラを出してた。
だけど、そのオーラが実は「話しかけたいんだけど出来ないんだよ何が悪いっ」て言うオーラなんだって、知ってるのはきっとオレだけだ。
『ものすっごい人見知りするんだ』
『へ?』
『だから、人見知りするんだってば』
『……ひとみしり……』
何喋って良いか良く分かんなくてさ、と拗ねた子供のように呟く君が可愛く見えたのは、ひとまず脇に置くとして。
『オレも人見知りするんだけどね』
『え? でも上本とか谷川とかと仲良いのに……?』
『名前は知ってんだ』
『知ってるよ。目立つもん、相沢達』
あっさりと呼ばれたその名前は、なんだかもう何十年もそう呼び続けてたみたいに自然な音を響かせて。
なんだか嬉しくなった。
『……オレらは中学一緒だったから』
『そうなんだ……』
『まぁいいんだけど、ソレは。……オレが言いたいのはさ、たぶん、クラスのみんなが、はなしたいと思ってるよってコト』
『……』
『少なくともオレは、話してみたいって、思ってた』
『……ホントに?』
『ホントに』
こっくり頷いてみせると君は、嬉しそうに笑ってくれた。
『そっか』
そっかそっかと笑った君は、やっぱりキラキラして見えて。
抱き締めたい衝動を押し込めるのに必死だった。
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