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「…………オレ、探してくるわ」
「え? ちょっと」
何か言いかけた二人には構わずに、立ち上がって教室を出る。
すれ違った教師に、もう授業始まるぞ、なんて声を掛けられたけど。
適当に返事して階段を上って。
息が切れるくらい走って、屋上への扉を開ける。
あの時と同じに、降り注ぐ光の中で。
だけど、一人ぽつんと座り込んでる朋弥は、酷く頼りなくて幼く見えた。
「………………朋弥」
「…………----あいざぁ」
そっとかけた声に、朋弥はゆっくり顔を上げて。
迷子の子供みたいにオロオロしてた顔に、ゆっくりと安堵の色が広がっていくのが分かる。
「どしたの。もうチャイム鳴るよ?」
「…………孝治くん、怒らしちゃってさ」
「……孝治くん?」
「……一緒にご飯食べてた、中学ん時から一緒の、友達」
「……そう」
すたすた歩いていって、置き去りの子猫みたいな朋弥の隣に座る。
「オレ、学校楽しいよって言っただけなのにさ。……なんか、機嫌悪くなって、帰っちゃって……。なんでだろって考えてたら、帰れなくなった」
「……」
「そしたら、相沢が来るから」
「から?」
「……」
「迷惑だった?」
傷つきながら言った言葉に、違うよと、叫ぶみたいな声を返した朋弥は、もっと傷ついたみたいな顔をしてて。
「…………朋弥?」
「オレさ。……学校、楽しくなかったよ、最初。誰とも喋れなかったし……。孝治くんとご飯食べる時が、一番ホッとしてたし。……だけどさ、相沢と喋るようになってから、楽しくなったって。……ずっと、孝治くんがオレのこと心配してくれてるの知ってたから、だから、楽しいんだよって、言っただけなのに……」
場違いなチャイムが五月蠅く鳴り響く中で聞いた台詞に、胸の奥が跳ねたのが分かる。
楽しくなった。オレと喋るようになってから、楽しくなった。
都合の良い勘違いを起こしそうになって、慌てて押さえつけたのは、好きって言う想い。
今のは違う。単に友達として、そういう意味で言ってるだけだよ。
言い聞かせて、表情も取り繕って。
必死に平静を装う。
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