第一章 終止符

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「自分は何の為に存在しているのだろう」 これは、僕の物心ついて以来ずっと抱えている疑問だ。 生まれて間もなく両親が事故で死に、母の親友だという女性に養われて育った。 そして、僕の高校生活はもうすぐ終わりを迎えようとしている。 育ての親である彼女は、詳しく聞いたことは無いが医療系の仕事に勤務しているらしく、毎日日の登らぬ内に家を出て深夜に帰宅する。帰ってこない日も珍しくない。 彼女は生活に必要な金や家具は言えばなんでも用意してくれる。でも、言葉を交わすことはほとんど無い。 本当に、生きる為だけの関係。 毎朝起きると食卓の上にいくらかの現金が置いてあり、その金で昼食を買って済ませ、帰りにスーパーで朝食の材料と夕食の惣菜を二人分買って帰る。 夕食を済ませた後に風呂に入り勉強して、朝食を作って寝る。 これが僕の中高六年間の生活サイクルだ。 僕は物心が付くにつれ自分の境遇が周りと違う事を徐々に自覚していった。 そしてそれと同時に自分が存在する意味を考えるようになった。 現状、学校にも家庭にも自分が存在する必要性を感じていない。 中学でも高校でも初めのうちは友達も人並みには居た。 でも、皆僕の境遇を知るにつれて僕を気遣い態度を変えた。 善意で気遣ってくれている彼らの態度に決して詰める事の出来ない距離を感じた。 気が付けば僕はまた一人だった。 中学から始まった部活動は全入制だったので仕方なく、心身を鍛えられるという勧誘に惹かれた剣道部に入部した。 剣道部を選んだもう一つの理由は学校が防具を無償で貸してくれる上に強豪校故に部費が無かった事で、今思えばこっちの理由の方が大きかったのかもしれない。 そんな熱意の欠片も無い動機で始めた剣道でもいざ始めてみると、一瞬の剣戟の中に凝縮された技術や気迫のぶつかり合いに今までの人生で感じたことの無かった刺激を感じた。 剣道は僕にとって初めての熱中出来る物事になった。
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