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「まぁ、こんな血まみれの場所で立ち話することじゃねぇな!
取り敢えず帰ろうぜ、話のついでに飯でも奢らせてくれや。お前さんにはゲシュテルンを守ってもらった恩もあるしな。」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます。」
ゲシュテルンに帰るべく振り返るとひぃ、と子鹿のような声が上がった。
降り掛かった危機とシルトの登場で忘れていたが彼も居たのだ。
「大丈夫ですか?取り敢えず日があるうちに帰りましょう、立てますか?」
男はへたり込んだままふるふると首を振った。
どうも腰を抜かしているらしい。
仕方なくリースがおぶろうとすると、それよりも先にシルトが片手でひょいと肩に担ぎ上げた。
「あんた、度胸だけは認めるがとんだ命知らずだな。二度とあんな事するなよ?」
シルトが左手で剣を鞘に納め、顔の横にある男の尻をばしばしと叩く。
「す、すまなかった!だが、あいつらがみんな死んじまったらうちで働いてる連中を路頭に迷わせるって思ったら……居てもたってもいられなかったんだ……」
「……あんたの気持ちはよく分かる。でもな、もうちょっと俺達の事を信じちゃくれねぇか?俺達は守る為に戦う集団だ、あんたらが自分から魔物に向かって行ったんじゃ流石に庇い切れねぇんだ。」
「本当に……すまなかった。」
「まぁ、今回あんたらを守ったのはこっちのあんちゃんだけどな!」
リース達がゲシュテルンに戻ると西門には人だかりが出来ていた。
皆、リースを一様に見つめている。
シルトに担がれた男がリースを指差して叫んだ。
「彼だ!彼が稀人を倒し、私を魔物から救ってくれたんだ!」
「えっ」
それをここで言ってしまうのか。
案の定民衆は歓声を上げてリースに群がってくる。
血塗れの姿にも関わらずある者は肩を組み、ある者は手を取ってきた。
皆、一様に謝辞を口にする。
ありがとう。
「……!」
こんなにも気持ちのこもった、自分の為だけのありがとうは初めてだった。目頭が熱くなり、様々な感情が込み上げてくる。
もっと、沢山の命を守れる力が欲しい。
もっと、強くなりたい。
シルトは沢山の笑顔に囲まれ、泣き笑うリースを温かい目で見守り続けた。
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