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日が沈み、リースはロメルネ料理店の二階に居た。
目の前に美味しそうなステーキが置かれる。
「ほら、遠慮はいらねぇぞ、英雄さん。」
「え、遠慮なく頂きます!」
破竹の勢いで食べるリースにシルトが説明を始める。
「俺達ヒルフェ・シュトラールは魔物関係の依頼を専門に請け負う傭兵ギルドだ。二年前に、ゲシュテルンに避難して来た俺を中心に集まった有志で結成したんだ。団員は六十六人。内訳は剣士が二十人、弓兵が十六人、弩兵と衛生兵が十人ずつ、工作兵が五人、他が五人だ。……結成からの戦死者は十八人。覚えておいてくれ。本部は街の中央広場の北東の角にある。基本的には依頼の内容によって適材適所に人を回すが、依頼の内容によってはギルド総出で対処することもある。金は取らないがギルドの維持の為に、依頼者や支援してくれる人の寄付は受けてる。」
「むぐ、なるほど。」
相槌を打ち再び食べ続ける。
しばらくするとシルトが独り言の様に話し始めた。
「……うちにはな、お前さんよりちっとばかし年上の養子が二人いるんだ。二人共別々の村で魔物からたった一人生き残った餓鬼んちょだ。
うちに来るとすぐにちっこい身体で戦いを教えてくれと頼んで来たさ。
俺はあいつらの真っ直ぐな目に勝てなかった。今となっちゃ二人共うちのメンバーの中でも指折りの精鋭だ。だが、あいつらに戦いを教えたのが正しい選択だったのか、今でも分からねぇんだ……」
シルトが話を終えると、二人の間に沈黙が流れた。
部屋にナイフとフォークのぶつかる音だけが響く。
「ご馳走様でした。」
リースが皿にナイフとフォークを揃えて置くとシルトが下膳を始めるべく席を立つ。
彼が一階へ降りる階段の前に来た時、リースは口を開いた。
「あの、僕なんかがとやかく言えることじゃないのかも知れませんが、きっと二人はシルトさんが戦いを教える事を拒んでも、他の人を当たって今と同じように戦いに身を置いていたと思います。シルトさんに指南を求めた時から、良くも悪くも彼らの戦う事を選んだ意志は消えないから……」
シルトは立ち止まり、背中だけで答える。
「そうかもしれんな。すまん、会って半日も経たん親父の悩みなんか聞かせちまって。」
「いえ、いいんです。……ただ、そのお話を聞いた後でとても申し上げ難いんですが……」
その言葉にシルトが振り返る。
「僕を、ヒルフェ・シュトラールに入れて頂けませんか?」
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