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「おはようございます!」
元気の良い挨拶は長机の並ぶ広々とした大部屋に響き渡った。
屈強な男達が一斉に視線を向けてくる。一番近く入口の近くに座っていた弩の手入れをしていた男が話しかけてきた。
「おはようさん。依頼かい?にいちゃん。」
「あ、いえ。今日からこのギルドにお世話になる剣士の者です。」
場がざわめく。
「そ、そうか。随分と若い新入りが来たもんだな。身体はそこそこ出来上がってるみたいだが、にいちゃん剣はどんくらいやるんだ?」
「い、いえ僕はまだ――」
「剣技の善し悪しは歳ではない。そうだな?リースくん。」
リースの言葉は重なる声にかき消された。
部屋の奥から、一つに結わえた銀髪を揺らしながら細身の男が歩み寄って来る。
「あなたは?」
「私の名はノーティス。姓をフリュスタンと言う。シルトさんの指示で君に剣の指南をする事になった者だ。」
てっきりシルトに教えて貰うものだと思っていたので少し驚いた。
普通に考えてギルドマスターが直々に指南してくれる訳などない。自惚れていた自分に気付く。
「……よろしくお願いします!」
「さて、早速だが地下の演練場で君の腕を見せてもらうよ。ついて来なさい。」
ノーティスが踵を返す。
後を追って冷えた空気の満ちる演練場に踏み入る。
木刀をなげて寄越された。
「さぁ、来なさい。」
彼は僕の事を買いかぶっているのではないか。
咄嗟に言い訳がましい言葉が漏れる。
「あ、あの僕はまだ」
「――君はここに何をしに来た?その言葉は君に何かをもたらすか?
剣士なら、言葉などにすがるな。斬り結べば全て分かる事だ。」
「……!」
身をこわばらせるリースをノーティスは優しく笑った。
「剣はいつでも正直だ。恥じらわなくてもいい。躊躇わなくてもいい。君のありのままを、全力でぶつけてきなさい……そう、全力で!」
待つことをやめ、ノーティスが一気に間合いを詰めてきた。
左腰にあてがわれた木刀、虚空の鞘から剣が閃く。
「くっ」
低い位置からの素早い斬り上げ。
咄嗟に片手で受ければ、その手から木刀は容易く吹き飛ばされた。
反動でたたらを踏み、尻餅をついてしまう。
「なるほど。剣筋を見切る目と、対処し得るだけの肉体はあるな。技術と経験が足りていない、と。なら話は早いな。
君には今日から毎日、私に一撃決めるまで戦い続けてもらう。」
「分かりました……!」
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