第三章 外乱者

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「――まず魔物の出現傾向についてだな。 魔物達は闇から零れるようにどこからともなく現れ、人知れずその姿を消す。そして、頸髄を断たない限り驚異的な治癒力を有する。また、奴らはこれまでの二年間の記録では陽の光の元に出ることを避ける事が分かっている。満月の前後にその活動を鈍らせる傾向にある事もだ。」 満月の前後。その言葉が先日の初陣をフラッシュバックさせる。 ――あの日の月は満ちていた。 一抹の疑問を感じたが、あくまで傾向だからだろうと自分を納得させる。 「……だが、先日の昼間の稀人の襲撃は異常な物だった。その上、稀人のみならずその近くには屍人や骸まで居た。……もし奴らが陽の光を克服しようとしているのならそれは……やめておこうか。推測で頭を抱えるのは時間の無駄だ。」 「すみません、ムクロとは?」 「昨日君も目にしたのではないかな。その名の通り、骨の姿の弓兵だ。」 昨日の、いや、かつてこの身体に死をもたらしたあいつが骸か。 あの時、骸は知性を感じる動きで矢を放ってきた。 やはり危惧したとおり、敵も知性を有する種が少なからずいるようだ。 「そうだ、稀人というのは巨大な屍人という認識であってますか?」 「ん?あぁ、すまない説明が足りていなかったね。稀人と言うのは屍人が戦いを重ねて高い戦闘力を付けたり何らかの突然変異で特殊な身体を手に入れたりした個体の事だよ。昨日の稀人は比較的出現率の高いものだね。」 「なるほど……」 その後も暫くの間魔物の説明は続いた。 ちょうど話に区切りがついた時、大部屋の角の扉が開いて棒状に巻かれた大きな紙を脇に挟んだシルトが出てきた。 「よーし、みんな揃ってるか!明日の説明すんぞー!」 団長の掛け声で男達が静まり返る。 「久々の大人数での仕事だが、今回はさらに他所のギルドとの合同での作戦だ。」 団員達がざわめく。 リースはまだ新入りなのではっきりとは分からないが、ヒルフェ・シュトラールの今現在ゲシュテルンに滞在している団員全員をもってしても足りないという事実が、如何に今回の任務が一大事なのかを伺わせていた。
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