解体現場

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解体現場

 建築系の仕事をしているが、空き家などの解体作業がかなり苦手だ。というか、解体自体に問題はない。苦手にしているのは、壊す前に建物を調べる作業だ。  取り壊しを依頼されるくらいだから、建物はたいていどれも古く、壁や天井に染みがついていることがほとんどだ。  その染みが、時折人の顔の形になり、話しかけてることがあるのだ。  気づかないふりで無視しているが、それでもお構いなしに染みは俺に話しかけてくる。  その内容はいつも一つ。  この家のどこそこに自分の亡骸があるから、建物を壊す際は、死体を一緒に壊さないようにしてくれ。  聞こえてしまった以上、気にかけない訳にもいかず、毎度上司に『ここは何か変な気配がする』と進言してきた。もちろん最初は何を言っているんだと笑われたが、進言した時は確実に死体が出て来るから、今じゃ向うから『この家はどうだ?』と聞いてくるくらいだ。  役に立ってはいるのだけれど、俺は、作る方に憧れて建築系の道を選んだ訳で、解体時の死体感知役は本当は嫌なんだよな。  そもそも、こんなにどこもかしこも死体が隠れている廃屋ばかりって、考えるだけで気分が悪くなる。  望んで就いた職だけど、さすがに…転職を考えるべきだろう。 解体現場…完
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