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「おまえにとってアロイスってのはなんだったんだ?」
側近か下僕かはたまた親戚か。
本気で恋人だったわけではあるまい。
というか、それはマジで勘弁してほしい。
そして、そこはせめてはっきりさせてほしい。
そんな期待をこめた俺の眼差しに、しかし魔王は、はてと首を傾げて言った。
「なんだったのであろうな?」
「俺に聞くなよ…!?」
聞いてんのはこっちだっつーの!
このトンチキ魔王め。
「だったらアロイスが何者なのかだけでも教えろよ」
内心、歯ぎしりしながらもなるべく平静を装って再度、問いかける。
すると魔王はじっとりとした目つきで俺を見たあと、ふいっとそっぽを向いてしまった。
「……自分で思い出せ」
「…ぇ」
「我の口からは教えぬ」
「……なんで」
「……」
むっつりと押し黙った魔王を俺はしばらく眺めていたが、どうにも口を割りそうもないのでやれやれと嘆息して諦めた。
――魔王が拗ねるって、どーなの。
「あー、まぁいっか…。……話を戻すけど、とにかく、保健室でしたよーなのはもうすんな。それは絶対だからな」
びしっと顔に人差し指をむけ、気を取り直した俺があらためて釘をさすと、魔王はちらりと俺を横目に見てから、不貞腐れた顔をしつつもしぶしぶ了承したのだった。
「アロイスは我に冷たくなったな」
「だからアロイスじゃないからね」
今までにも何度もしたやりとりを〆に、俺はそれで今回の件は終わりにした。
前世の仲間たちが口々に盛大な文句を並べたてる様子が目に浮かんだが、文句があるならおまえらも転生してこいと俺は言いたい。
ホント、切実だよ。
普通に戦ったときの方が魔王の相手は楽だったかもしれない、と若干遠い目になる俺だった。
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