260人が本棚に入れています
本棚に追加
「それを俺に渡せ」
「できぬな」
「……渡せ」
「これがないと、……我は困る」
魔王はなぜか鉛筆を持つ俺の手を睨みながら、どこか力なく首を振った。
「……なぜだ?」
人を無理やり従わせるためか。
人を傷つけるためか。
人を……殺(あや)めるためか。
「我は力を失っておるゆえ、これがなければ身を守れぬ」
「――……」
一瞬、ひどい違和感をもった。
俺が想像していたどの返答ともそれは違っていた。
想定外の答えだった。
戸惑って無言になった俺に、魔王はどこか非難がましく続けた。
「忘れたのか。おまえが言ったのであろう。我が傷つくことが嫌だと」
「………………」
――言った。
確かに言った。
もうずいぶん前になるが、あれは四年のときだったろうか。カッターでケガをした魔王に対して俺は学校の廊下で確かにそんなようなことを言った。
ちゃんと覚えている。
…………覚えている。
覚えているが――、
(まさかそれが答えだとでもいうのか?)
俺はあまりにも予想から外れた答えに脱力し、その場にしゃがみ込んだ。
「なんだよそれ……」
俺の決死の覚悟を返せ。
魔王が「力」を欲した切っ掛けが俺って、まるで自ら張った罠に自分で飛び込んだようなものじゃないか。
(こっちは超苦手な尋問、がんばったのに…)
前世では仲間内にそっちのエキスパートがいたから俺の出番なんてなかった。
俺は敵陣に突っ込んでいくのが仕事だった。
脳筋と言われようがなんだろうが、基本、それだけでよかった。
そういう裏方っぽいのは、もっぱらそいつら任せだったのだ。
(身バレしないように誤魔化しながら尋問なんて超ハードル高かったんですけど…)
それでも自分しかいないし、やらねばならぬからやったのに。なにこのオチ。
「……あーもー、じゃあその宝石、なんなの? 子供の持つもんじゃねぇだろ。どうやって手に入れたんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!