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「これはルビーと呼ばれる石だ。家人に命じて仕舞い込んである貴金属類を持って来させたものの中の一つだ。これが一番『力』があった。己が身を守る道具として適していた」
「ストーンパワーとかいうやつか」
……というか、そのでっかいルビー、もし本物ならとんでもない値打ちもんじゃないのか?
庶民の俺としては、そんな貴石を学校に平然と持ってくる魔王の神経をおおいに疑うところだ。
「我の魔力は使えぬので、代わりとなる『力』が宿るものを探した。この世界にも『力』はある。魔の力とは少々異なりコツがいるが、使役できぬこともない。なにしろ我は魔王であるからな」
――こいつの言うことは、奴の正体を知らなければ完全に中二病患者の世迷いごとにしか聞こえないだろう。
だが、俺はそれである程度納得することができた。
魔王に隠し立てする気がなくて助かった。
なんというかこの魔王、魔王なのにあんまり裏表がない。素直か。
「はぁあああああ」
わずかながらの葛藤の末、俺は全身で溜息をついた。
――俺は馬鹿で甘ちゃんだ。
「よく聞け鈴木。いいか、もう二度と俺にその『力』を使うな。それから人間をその『力』で故意に傷つけるな」
身を守るためだけに使うというなら、百歩譲ってそれの助けを得ることを許そう。
こう言っちゃ身も蓋もないが、なにしろ魔王は弱すぎる。
その石が魔王をフォローしてくれるなら、俺としても悪い話じゃない。魔王にかける手間が減るのは、正直助かる。
「もしその宝石の『力』を誰かを害するために使うなら、俺はおまえを絶対に許さない」
――それが俺にできる最大限の譲歩だ。
魔王はほんの少し逡巡した後、案外あっさり「よかろう」と頷いた。
嘘ついたら今度こそ針千本飲ますからな。
「アロイス、もしや保健室でのことを怒っておるのか?」
今更その質問か。
俺の脱力感がいや増した。
このピンボケ魔王、もうやだ。
「……………………そりゃ怒るだろ、あんなことされりゃ誰だって」
「なぜ怒る」
このクソ魔王。
「あたりまえだ…! あーいうことは、えーと…、まだ早い!」
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