その1

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 メールが届いたのは、依頼してから三日が過ぎた頃だった。一世紀も昔になるとデータと送るしかないようだ。本当は復元した現物が戻ってくることを少しは期待していたのだが。さすがに、それは不可能だったらしい。それに、今回は急な依頼だ。前のように、監視カメラの白黒映像をカラーに起こしてもらうのとは訳が違う。早急に画像だけでも送信してくれたことに感謝をしなくては。  辻利静佳はスマホを立ち上げ、警視庁から送られてきた復元された画像を確認する。  臨海公園のすぐ隣にある森。その中を探索していた最中、自然と同化し廃屋となっていた、かつての屋敷で発見した古い古い写真。いつから、その写真が置かれていたのか分からない。ただ、相当古いモノであることだけは分かる。今時、白黒写真をとれるカメラがあまり残されていないことと、写真に使われていた紙の質が古かったことだ。扱い一つを誤れば、ボロボロに壊れてしまってもおかしくないぐらいの。隈上が言うように、写真が形として残っていたのは奇跡だったかもしれない。  もっとも、写真が現存していたという“奇跡”など、そこに写っていたモノを目にした途端に吹っ飛んだ。それを見た時、静佳は背筋が凍る感じを味わった。古い写真だったので、単なる他人の空似、もしくは劣化していたことによる見間違いだと思いたかった。ただ、偶然にしてはあまりにも出来すぎていた。どうしても、真実を知りたく父親の輝葉が指揮をとる政府直属の対魔部隊を通して、警視庁の腕利きの鑑識官に写真の復元依頼をしてもらった。三日掛かり、送り返されてきた画像。カラーではなく白黒の古めかしい画像であるが、最新技術を用いれば鮮明に見られるようになる。  何か間違いがあって欲しいと、静佳は内心、思い願っていた。本来ならあり得ないことなのだから。しかし、そんなささやかな願いもスマホの画面に映し出された画像と、 「あれ?その人って」  昼食を終えて歯磨きをしていた妹の夢葉の言葉で打ち砕かれることになる。 「兄様。どうしたんのですか?その白黒写真。なんで、彼が写って」 「い、いや。何でもない、ちょっと夏休み課題で色々と調べ物をしていたんだ」
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