その1

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 静佳は慌てて画面を戻して、画像を隠した。夢葉はどうして、その画像を隠したのか不思議に思った。白黒画像で古くは感じたけど、今時、そういう写真を撮りたがる人は幾らでもいる。画像に写っていた彼も、気に入りそうなのに思ってていた。  しかし、夢葉は知らなかった。この写真がつい最近、デジカメに撮られた特殊な写真ではないことを。現物は百年以上も前に撮影された代物であるということに。そこに、“彼ら”が写っていた。それが大きな問題なのだ。 「夢葉。悪いが今日は部活の方にいってくれないか」 「飼育部ですか?別に構いませんけど、こっちも色々とゴタゴタが続いてしますから」  夢葉は夢葉でやらないといけないことがあった。数日前に逃げ出した----正しくは、部活顧問の小重が逃がしてしまったカラスの天空(あまぞら)。あれが未だに捕獲できていなかった。天空を逃がした当事者である小重は夏休みに有給をとりバカンスに勤しんでいる最中なので、飼育部の夢葉と後輩のさとみとことりで捕まえなくてはならない。ゴミ荒らしぐらいの被害ならいいが、天空を追い払おうとした住民が反撃にあったというニュースがネットに書き込まれていた。小重が取り付けた余計な装置が原因なのだが。このままでは、保健所が動いてしまう。そして、いずれば余計な装置を取り付けた小重が捕まり(逮捕は自業自得なので問題ないが)、飼育部が解散させられてしまうかもしれない。 「それならいいけど。俺はちょっと、明日香のところにいってくる」 「明日香先輩のところに」 「ちょっと、話したいことがあるから」  正直なところ、静佳はあまり気が進まなかった。だけど、これは重要なことである。明日香に動揺を誘うことになるかもしれないが、このまま、何もしないで事態を混迷にさせる方がもっと問題であった。  まずは、どうやって事情を説明するべきか。  この写真について。  墓参りを終えた拓郎は帰り足、夕海神社に立ち寄った。町長のメイは公務中なのでいないと分かっていたが、何となく足がこっちの方を向いた。 「あら。ジィさんじゃない。あんた一人で参拝とは珍しいね」  石段を上がり鳥居をくぐると、境内の敷地を竹箒で掃除している巫女服を着た老婆がいた。メイの母親、柏澪(かいわみお)である。
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