第1章 反抗期

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第1章 反抗期

「最寄り駅はどこ?」と聞かれても答えようがない。なぜなら自宅はどこの駅からも遠い不便なところにあるからだ。 高校に入学した私は、自転車での通学を選択した。ところが、通学途中で軽トラックにぶつかり、自転車はぺちゃんこ。奇跡的なことに怪我は打撲程度で済んだが、自転車に乗ることが少し怖くなり、バスと電車通学に変更した。 私の高校は海も駅も近い。まるで、海の上を走っているかのような赤い電車は、教室の窓から見える。ほとんどの生徒は電車通学だった。 高校二年の夏休み、徒歩で学校まで行けるのではないかと思い付いた私。思いきって歩いてみる。自転車では瞬く間に遠ざかっていた景色は、じっくり眺めるととても素晴らしかった。スイカやみかん畑、房総や伊豆半島、おまけに空気が澄んでいると富士山まで見える。 私は、畑のおじさんに採れたてのスイカをひと切れごちそうになったことがあった。汗ダラダラの時にはちょうどいい水分補給になりとても美味しい。 ところが、学校までのんびり歩くと片道一時間掛かった。授業がある日に寝坊すると、途中で走らなければならない。急げば45分くらいで学校へ行くことができた。ワンダーフォーゲル部の私には、ちょうどいいトレーニングになったかもしれない。 脚力と持久力がついても校内のマラソン大会はドキドキだった。冬になると体育は走ることばかりで、一時間の時は丘の上の畑コース。二時間の時は海岸沿いのロングコースだった。 畑コースは、スタートから少し走ると急坂になり大半の生徒は歩く。そこを上りきると富士山がどーんと見えた。みんな苦しくて息が上がっているにもかかわらず、先頭から感激の声が聞こえてくる。その感激は最後尾まで伝染していった。 このコースは、どこが正式なルートか分かりにくい。女子の先頭を走る人は方向音痴だったので、いつも後からスタートする男子に道を尋ねていた。 海岸コースは、男子が10km、女子は6km。最初の授業で折り返し地点の目印を説明されたが、スタート地点からはもちろん見えなかった。晴れた日は電柱の影がスタートライン。先生の笛の合図で走り始めるが、30分ちょっとの長い道のりを考えると、電柱にしがみつきたくなった。 冬の海はとてもきれいで、ウィンドサーフィンが気持ち良さそうに海上を滑る。授業の途中でふらっと抜け出し、レストランでまったりしたり、砂浜を散歩したりしたくなった。
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