第2章 ロードバイク

1/5
前へ
/12ページ
次へ

第2章 ロードバイク

私は20代後半で保育士になった。20代前半はOL。都心の空は狭いと思いながら、ノルマをこなす平凡な日々だった。 OLを辞めて専門学校に入り保育士の資格を取ったものの、いざ仕事をしてみると待遇は世間で騒がれるようになるほど悪い。何が喜びかといえば、子どもの笑顔と成長を見られることだろう。 そんなことを常々感じながら時は流れ、いつの間にか30代。ある事がきっかけで引っ越し、海の近くにアパートを借りた。ベランダから海は見えないが、耳を澄ませば波音が聞こえる。 日頃のストレス発散と体力維持のために、山登りやマラソンを趣味にしていたが、せっかく素晴らしい環境で暮らしているのだから、新たにスポーツをしてみようと思いついた。 山仲間には、ハンドルが曲がっていて前傾姿勢で走る速い自転車、つまりはロードバイクに乗っている人が多いので、自分もそれに乗りたいと願うようになる。 思いたったらすぐに実行へ移す性格の私。山仲間の一人に相談してメーカー直営店の試乗車を借り、ロードバイクとはどんなものかと乗ってみた。すると、ママチャリとは違うスピード感に大興奮する。こんな乗り物が世の中にあるなんて素晴らしい。 小学校のマラソン大会前になると、父と姉と私の三人、毎晩のように交通公園で練習した。いくら頑張って走ってもあの二人を抜かせない。足が重い時は周回遅れになった。その悔しさをはっきりと覚えている。 今はロードバイクという武器と自分の体力のみで速く走れることがとても嬉しかった。 乗る気になって10日後には大金を持って自転車店へ向かっていた。女性の競技人口が少ないため女性向けモデルは少なく、選択肢はあまりない。知人に相談してセールで安くなっていたターコイズブルーのロードバイクを購入。自転車店の主は親切で、最初は乗りこなせないだろうからと、近所までタダで配達してくれた。 さあ、どこへ行こう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加