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これぐらいは許して。
今日で最後だから…。
血で赤く染まった人斬りの僕の手が、多恵ちゃんの甘い匂いが染みついた綺麗な手を握るのは今日で最後だから…。
「……今日、花火大会があるでしょ?」
「う、うん」
首まで真っ赤にして、視線を泳がせる多恵ちゃんにまた僕の鼓動が音を立てる。
ドキドキしすぎて、どうにかなりそうだ。
ギュッとさらに握る手に力を込める。
でも痛くならないように。
そして、ここに来るまでに練習した通りの言葉を紡ぐ。
「君と、一緒に行きたいんだ」
「え…」
「駄目?」
少し不安になって尋ねれば、多恵ちゃんは首をこれでもかというほど大げさに振った。
「わ、私も総司くんと一緒に行きたい!」
重なり合っていた手に、さらに多恵ちゃんの手が上から重ねられる。
それにまた嬉しさと悲しさで胸を軋ませながら、そっと手を解く。
途端に寂しそうに瞳を揺らめかせる君を抱きしめたくなる衝動を何とか抑えて、小指を差し出した。
「じゃあ約束だよ?…夕刻迎えに来るから」
僕の意図が分かったのか、今度は花が咲いたように顔を綻ばせて、僕の小指に自分の細い小指を重ねる。
「うん、約束。…待ってるね」
コロコロと表情を変える君が、やっぱり愛しいと思った。
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