第1章

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独り身で、いや愛犬と同棲しているとのことである。  お玉さんは、母親がお世話になっている先生だし、口も態度も悪 いが、治療に満足した人に見せる愛嬌のある笑顔にも惹かれたとこ ろがあって、デートの誘いに応じたのである。  但し、お玉さんは、野獣先生のお誘いを受けるに当って、断って おきたいことがあると言った。それは同じ葉山町に住む遊漁船の船 長が、自分に結婚を申し込んでいて、自分としては申し分ないが、 その人が五歳も年下であることや、自分が子連れであることに抵抗 があるので回答は保留にしてあることを正直に話したのである。  野獣先生は、驚くふうでもなく淡々としていた。 「恭子さんほどの人を、男が放おっておくことの方が可笑しいです よ。その程度のことは・・・僕も覚悟していましたから」  と、逆にほっとしたようであった。  それから約一か月後、葉山の海辺のレストランでお玉さんが激怒 していた。 「ちょと、どういうことなのよ!」  お玉さんに怒られているのは、他でもない、野獣先生と、先にお 玉さんに結婚前提のお付き合いを申し込んでいる、もう一人の男、 遊漁船の船長小泉研二の二人である。怒りが収まらないお玉さんの 前で、大の男が二人でションボリしていた。 「あのね。私を取り合って、決闘しようということまでは分かる。 有り難くて涙が出てくるくらいよ。そして二人共、いい大人だから 殴りあうわけにはいかない、そこは理解しましょう。だけど相撲や 腕相撲までならまだ納得がいくけど、魚釣りとゴルフで争うという ことはどういうこと。古今東西聞いたことがないわよ。私を魚釣り やゴルフの勝ち負けで私を取り合うわけ!」  なるほど、お玉さんには怒るだけの理由があった。当然である。 恐る恐る野獣先生が言った。 「いや・・・相撲とか腕相撲とかは柔道をやっていた僕に方に分が あるので、それでは不公平だと・・・研二君が自分の得意なものを 入れてくれろと言うもので」 「研ちゃん!あなたは魚釣りとゴルフで、私の人生を決めようとし たわけ?」 「いや・・・あの・・・その・・・あの・・・その・・・XYZ」 「いずれにしても、結果はどうなったの」「引き分け!」  と二人とも同時に笑顔で声を揃えて言った。頭を抱えるお玉さん であった。 「私は今年三十八歳になるお婆ちゃんだけどいいの。お二人のご両
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