第1章

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親は、私のような年増を初婚でもらって泣かない?私には今、高校 一年生になる子供がいるのよ。そのうちに大学にいけば学費もかか ることだし本当にいいの」 「大丈夫です!」  きっぱり、また二人とも同時に声を揃えて言った。  この二人は、お互いが恋のライバルのくせに、変に仲良しになっ てしまったのが何とも気にくわないお玉さんであった。  葉山のレストランでは、フランク・チャックスフィールドの「引 き潮」がBGMとして流されていた。お玉さんの大好きな曲であっ た。  お玉さんは、自分のこれまでの数奇な運命は、結局は自分の責任 であるが、分かっていながら何故か今になって、ソフトボールに打 ち込んでいた青春時代や、別れた夫と過ごした日々が妙に懐かしく、 まるで昨日のことのように思えて、胸が熱くなるのを押さえきれず にいた。  お玉さんは、音楽を聴きながら、レストランから臨む海岸を見て いると、アフガンドックのような犬を連れて散歩している若い夫婦 が目に留まった。 「ジョセフィーヌ!」と犬を呼んでいる。お玉さんは、どの顔して ジョセフィーヌなのかと思って見ていると、呼ばれた犬は、砂浜を 喜び駆け回り、媚びるように呼んだ主人の方を見ながら走ったこと から、「風致地区」などと書かれた白い杭に思いっきり頭をぶつけ てしまったのである。頭を強く打って脳震盪を起こしたのか足下が ふらついていた。 「ジョセフィーヌ大丈夫!」と駆け寄る夫婦を見て、お玉さんは思 わず吹き出していた。隣のむくつけく男共を見ると、二人ともレス トランの床に転げて「ざまぁみろ」と腹を抱えて笑っていたのであ った。  お玉さんは、素敵なムード音楽に包まれたレストランも、静かな 葉山の浜辺もいいが、所詮、自分は体育会系女子なんだなと、ため 息をつくしかなかった。ただ、この日からこの男性二人との距離は ものすごく縮まり、頼もしくもあり少し愛おしくさえ思えてきてし まったお玉さんであった。
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