第1章

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「いいから走れ、走れと言ったら走れ!」 「はい!・・・」  かくして、僕は走り方が悪かったのか、シューズの底敷きまで手 を加えていただいて、一時は一歩も走れなったたのに、走れるよう になったばかりではなく、見事?制限時間ギリギリで三浦ハーフマ ラソンを完走したのである。そして華やかな六月の結婚式のプロフ ィールの一部を、姑息ながら飾ることが出来たのであった。 「あいつマラソンが趣味だったっけ?」という妬み嫉みのような 外野の声は無視することにした。フン!やったもの勝ちだい。 二 菜箸お玉さん  先ず、菜箸お玉さんの名前の謂われを話しておかねばならない。  お玉さんは、本名は小峰愛子という人で、葉山町の総菜屋さんで 働いている人だ。  こんな変な渾名がついたのは、葉山町の鐙摺近くの交番のお巡り さんが、高価なマウンテンバイクを盗んだ疑いの男を「泥棒待て!」 と叫びながら追いかけてきたことがあって、その声に反応するよう に、魚屋のおじさんが出刃包丁を、土産物屋のおじさんがビーチパ ラソルを、お玉さんは仕事で使う菜箸と穴開きお玉を持って一斉に 飛び出して行ったことがあった。  逃げていた男は、世間の大方の予想に反して、お玉さんに「止ま んなさいよ!」と、菜箸で顔をカウンター気味にピシャリと叩かれ て、「何するんだよ!」と鼻血を出して怒っているところを、「お だまり!」と今度は穴あきお玉で、後頭部をスナップをきかせた手 でカキーンと叩かれてしまい、ほぼ蠅叩き状態で動きが鈍くなった ところで御用となったものである。  自転車は、二十数万円もする高価なマウンテンバイクであり、犯 人は逮捕されたのだが、お玉さん等は逮捕に協力してくれた功労者 として警察署長から感謝状をいただいたのであった。  その署長感謝状の受賞祝いを、町内会館でやろうということにな り、お玉さんはその席上、誰からともなく、恭子さんは、仕置き人 「菜箸お玉」だねと言われ、以後、誰も恭子さんと呼ぶ人はいなく なり、お玉さんの愛称だけが根付いてしまったということである。  お玉さんは、ここ三浦郡葉山町で生まれ育った。生粋の葉山っ子 である。  お玉さんは地元では、この渾名がつく以前から超有名人だった。 お玉さんは私立の中学校からはじめたソフトボールでは、ピッチ
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