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第4章 フィナーレ・別れと新たな出会い
1月23日早朝6時。
勝次が突然、部屋から出てきて、
「母さん、もう一度逗子へ行ってくる」
台所にいた桂子はコクリとうなずき、表情と目線で(やっと、踏ん切りがついたようだね、行っておいで)と勝次に伝えた。
桂子はニヤリとして、
(相変わらず勝次は鉄砲玉だね。でもこれでいいんだ)
勝次、長崎空港行きのバスを待っている間に千尋に電話をする。
千尋は早朝、芝のある庭でストレッチするのが日課だ。タオルで汗を拭きながら電話に出る。
「千尋、聞いてくれ。実は俺たち繋がっていたんだ。詳しいことは後で話す。とにかく俺、すぐ飛行機でそっち行くから」
あまりにも慌てている勝次の様子に千尋は困惑して、
「どうなっちゃってるの? こんな朝早く。それに馴れ馴れしく千尋だなんて!」
言い返している途中で電話はぷつんと切れていた。
千尋はお茶を濁すことが嫌いだ。せっかちなところもあり、すぐに勝次に電話をかける。
「ねえ、さっきの電話、何よ。 後で話すからって、大切なことは今話しなさいよ」
「わかった、わかった。繋がっていたっていうのは……きみの高叔母の妹が好きだった勝次さんは俺の高叔父の兄で、その高叔父は唯一生き残った勝次さんの弟なんだ」
あまりにも意外で返事に困る千尋。
「えっ……でも、どうしてあなたが勝次さんと同じ名前なの?」
すかさず勝次は答える。
「それはちょうど高叔母の妹を思いやる君のお祖母さんと同じさ。お祖母さんはその妹の代わりに勝次さんに気持ちを伝えたかったんだろ?」
千尋はうなずき、
「まあ、そうなんだけど……」
勝次、さらに続けて、
「俺の親父も祖父を尊敬していて、祖父が慕っていた高祖父の兄である勝次さんの死が気になっていたんだ」
「だから、俺たち兄弟に亡くなった2人の名前をつけたんだ。2人をこの世に生かしたかったんだろうな」
「ただ、俺の唯一の弟は最近事故で死んじまったけど……。そばにいたのに助けられな……」
涙声になり、突然電話が切れる。
涙をこらえ、上を向く勝次。
千尋は電話を掛けなおすこともできず、どうしたらいいかわからず、その場で空を見上げた。
(そういえば、父さんもこんなきれいな青空を見上げるのが好きだったっけ…… 生きていなければこんなきれいな空、見られないよね)
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