第4章 フィナーレ・別れと新たな出会い

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 勝次と千尋が逗子市役所の前で再会したとき、正午の「真白き富士の根」オルゴール時報が鳴る。 シーサイド病院集中治療室では千尋の母親に見守られている祖母の綾子。微笑む綾子の目からは涙が流れ、眠るように息を引き取る。  偶然にも今日は2018年1月23日。ボート遭難が起きてから108年目を迎えた日である。  除夜の鐘がひとつひとつ人間の煩悩を解くように、七里が浜に散った12の御霊(みたま)も一年一年、自ずの煩悩を取り除いて、この108年目にして安らかに眠ることができたのかもしれない。  無言であるが、申し合わせたように逗子海岸へ向かう勝次と千尋。 「俺たちって、見えない赤い糸で結ばれていたんだね」 お互いに見つめあい、うなずく。 (108年前の勝次さんと藍さん、それにあなたの弟さんの分もわたしたち、しっかり生きないとね) 2人はきつく手を握り締め、「真白き富士の根」を歌いながらゆっくりと歩いていった。 「♪……御霊(みたま)よ何処(いずこ)に迷いておわすか、帰れ早く母の胸に……♪」                      終       image=499327942.jpg
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