第2章 勝次との出会い

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 勝次は急にまじめな顔になり、  「俺、親戚には神奈川の人がいないし、ボート遭難のこと自体ぜんぜん知らなかったんだから。まったく関係ない人間なんだ」 「そうね。年齢も本当の勝次さんとは、かけ離れてるしね」 「せっかく逗子に来たんだから、このあたりを案内するね」  神武寺駅へ行き、2人は六浦方向へ歩いて行った。 「ここが私の母校。中学のときバスケやってたんだ。補欠だったけど」 「勝次さんは?」  勝次は落ちていた木の枝を拾いながら 「くもをとっていた」 「え――、蜘蛛なんか捕っていたの? 変な趣味。生物部?」 「おいおい、その蜘蛛じゃなくて、あっちの雲!」  拾った木の枝で空の雲を指す。 「写真部にいたんだ。紺碧の空に白い雲、きれいだと思わない? その日によっていろいろ表情があるんだぜ」  千尋の目がなぜか赤く潤んでいた。  それを見た勝次、わけがわからず戸惑う。 「実はね、」千尋がそう切り出し、 「他界した父も青い空が好きでね、たくさん空の写真を撮っていたの。勝次さんと同じようなことをいつも言っていたわ……」 勝次、神妙な面持ちで深くうなずく。 「お父さんの気持ち、よくわかる」 千尋は込み上げる悲しみを飲み込んで、 「この先を登っていくと鷹取山まで行けるんだけど、今日は時間がないから。また来たときにでも……。鷹取山からの眺めが最高なんだ」 「あ―― もうこんな時間。病院へ行っておばあちゃんに今日のこと報告しなきゃ」 「わざわざ長崎から来てくれてありがとう。なんだか初めて会った気がしないね」  勝次はうなずき、 「そうだな。幼なじみに会ってる感じだな」 「結局、ボート遭難の江島勝次さんとはまったく関係がなかったわけだけどね」  千尋は小麦色の腕を差し出し、 「ちょっとケータイ貸してくれる?」  千尋は勝次の携帯電話に自分の電話番号を打ち込んで発信すると、千尋の電話からは真白き富士の根の呼び出し音がした。 「よし、これで連絡が取り合えるね」  千尋は勝次に携帯電話を返すと、 「また会えるかもしれないね。」 勝次はすかさず、 「今度会ったときは『千尋』って呼んでもいいかな?」 千尋は真剣な面持ちで、 「いいわけないでしょ。知り合ったばかりなのに……」 それを聞いた勝次は若干萎縮して、 「わかった、じゃあね」  2人は後ろ髪をひかれるようにゆっくりと反対方向に歩き始める。お互いに後ろを振り向かずに。  
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