第1章  知らなかった祖母の秘密

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第1章  知らなかった祖母の秘密

 時は2018年1月。  大学から帰ったばかりの緑島千尋(ちひろ)は、植木鉢をレジ袋に入れ、玄関で靴を履いている。 「ねえ、母さん。行って来るね」   母親の昌代も出かける用意をしながら、              「千尋! おばあちゃんによろしくね。行きたいけど、今からパートだから」  部屋で着替えしている昌代に大声で、 「わかってる。母さんは唯一の大黒柱だからね。頼ってるよ」  昌代は相変わらず部屋から豪快にいつもの返事を返す。 「頼られてるよ! 気をつけてね」  そう言いながら慌しく身づくろいしている。 「行ってきます! 」 千尋、ガラガラと玄関の戸を開け、バシンと閉める。アザリエの坂を下り、京急神武寺駅へと向かう。 神武寺駅は、上り線ホームへ行く時に人が線路をまたいで渡るという昭和風情の小さい駅だ。森の見えるのどかな風景。顔に吹きつける風は冷たいが、心地よい。 千尋は思わず深呼吸する。 京急金沢八景駅で降りた千尋は小走りにバスに乗り、シーサイド病院前のバス停で降車し、病院の入り口に入る。 エレベーターの中で見知らぬおばあさんが、 「おや、またおばあちゃんのお見舞いかい。優しいお嬢さんだね。私もそんな孫がほしいよ」 ちょっと照れながら、 「わたし、おばあちゃん子なんです。子供の時から母の代わりに何でもしてくれたんです」 ちょこっとお辞儀をして、 「では、おばあちゃんが待っていますので……」 持っているレジ袋を気遣いながら、さっとエレベーターを降りる。 窓ガラスを鏡代わりに自分の笑顔をチェックして、病室に入り、 「おばあちゃん! 元気してた? 調子はどう?」  レジ袋から植木鉢を取り出し、 「おばあちゃんの好きな紫のアジサイだよ。温室のだけどね。」  背を向けて寝ていた祖母綾子(あやこ)はきつそうに千尋のほうを向き、か細い声で、 「まあ、きれいなアジサイ。ありがとね」 綾子、突然深刻な顔で、 「千尋、私が死ぬ前に叶えてほしいお願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?」 あまりにも 唐突な話に、口を半開きにした状態で固まる千尋。 慌てた様子で、 「な、な、何よおばあちゃん。いきなり。ビックリするじゃない……」 「おばあちゃんのお願いなら何でも聞くから、言って」
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