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「雷蔵さん。今日はおはよう」
河守がエレベーター内の壁に寄り掛かり、いつもの挨拶をしてきた。
僕はニッコリと会釈をすると、秘書のノウハウから資料を渡された。
ノウハウは全て甘いマスクと鋼鉄製の体にガリ痩せの腹部をしている。身長175センチのアンドロイドで、一体38万円で買える安価だが高性能な機械だ。
その資料を注視していると、
「ねえ、スリー・C・バックアップって、一体幾らくらいするの? お金持ちの雷蔵さん」
冷やかした表情の河守が僕の顔を覗いてニッと笑った。
「……」
僕は資料を注視していたが、ノウハウに数点だけ指示をだして、資料を戻させた。エレベーターが136階に着いた。
扉が開くと、すぐにオフィスだ。 時間を無駄にしない作りだった。広々としたフロアに入ると、各々のディスクへ向かう人々を見て、僕は思うところがあった。
晴美さんのことを考えていた……。
スリー・C・バックアップを僕が海外に横流しすると、君はどう思うだろう?
僕がやったとはわからないだろう?
でも、もし……知ってしまったら?
「雷蔵さん! また上の空よ!」
気付くと、河守が目の前に座っていた。
時計を見ると、いつの間にか、午前の仕事を終え。松坂牛定食を102階のいつもの高級レストランで食べて。午後の仕事をして。そして、会議の時間になっていた。
「もう! ここんとこ、いっつもそう! 私が来てから毎日じゃないの!」
今年に入社した河守がぐるりと、長いテーブルを見回す。河守を含めて13人の人たちはノウハウから渡される資料を見ていた。
僕にそんな一言が言えるのは、河守ひとりだけだった。
「そんなに思い詰めるのなら……しなければいいのに……。因果応報って、言葉知らないの?」
「…………」
スリー・C・バックアップの横流しのことは、恐らく矢多辺コーポレーションで社内で発言することができるのは(外部に知られるとまずいのだけれど)、僕と原田とこの13名しかいない。
元々、矢多辺コーポレーションは、非合法擦れ擦れや時には絶対に公に出来ないことをしてしまうという事業を行っている余り健全じゃない会社なのだ。
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