捜索

5/15
前へ
/99ページ
次へ
 ヨハが甘ったるい間延びした声で、僕の口元にリンゴの欠片を突き出した。 「雷蔵様~。はい、あ~~ん」  そんなことをしていると、テレビから云話事町TVが流れた。   「今晩はーー!! まだ寝るには早いっす!! 云話事町TVッス!!」  ピンクのコートを羽織った美人のアナウンサーが、暗くなったB区の云話事イーストタウンを背景にしている。  藤元は呑気に鼻歌を歌っていた。丁度、寝間着を着ていて、お風呂を入りおえたといった感じだ。  夜の10時を回ったところである。 「今日の午前10時頃に、このB区の云話事イーストタウンで二体のノウハウと二人の男女が、カーチェイス・アーンド・銃撃戦を起こしたッス。周囲の道路は銃弾で穴だらけだったんですが、警察によりますと、今のところ怪我人はカーチェイスをした男だけのようです。警察はこのことを公開しないようにといっておりますので、残念ですが公開はしません。謎の男ですね~。現首相のお蔭で平和になったっていうのに、また何か起きるんですかね~~。ね~、藤元さん?」  藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振っている。 「寒くなってきました。少し暖かくしますよ……。お風呂入りおえたんで湯冷めしそうなんですよ……。その、うーん、と。わかりません……」  藤元の振る棒の回数と同じく。気温が上昇してきたようだ。 「それでは、皆さん。今日はお休みなさー……。あ、今日の運勢は。というか、これからの日本を藤元さんやっぱり教えてください」  藤元の顔にカメラが迫った。  少し鼻毛が伸びているが、それ以外はいたって昔と変わらない。  藤元は、少し大き目の本を取り出した。それを読み始めると、 「う~ん、と……。そうですね~……。今言えるのは、これからこの国は大変なことになるかも知れません。けれども、一人の男によって、救われると読み取れますねー。その人たちにフャイトを送りましょう」  美人のアナウンサーはニッコリとし、 「それでは、皆さん御機嫌よう~~。お休みなさーい」  僕は気が付くと、ヨハの突き出すフォークにあるリンゴの欠片を食べていた。 「やった! やった! やった~~! 雷蔵様が食べてくれました~~」  ヨハが大喜びだった。  僕が寝ようとすると、ヨハがベットの脇の電気スタンドとテレビを消してくれた。 「雷蔵様~。お休みなさ~~い」  僕は大きな欠伸をした。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加