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ヨハが甘ったるい間延びした声で、僕の口元にリンゴの欠片を突き出した。
「雷蔵様~。はい、あ~~ん」
そんなことをしていると、テレビから云話事町TVが流れた。
「今晩はーー!! まだ寝るには早いっす!! 云話事町TVッス!!」
ピンクのコートを羽織った美人のアナウンサーが、暗くなったB区の云話事イーストタウンを背景にしている。
藤元は呑気に鼻歌を歌っていた。丁度、寝間着を着ていて、お風呂を入りおえたといった感じだ。
夜の10時を回ったところである。
「今日の午前10時頃に、このB区の云話事イーストタウンで二体のノウハウと二人の男女が、カーチェイス・アーンド・銃撃戦を起こしたッス。周囲の道路は銃弾で穴だらけだったんですが、警察によりますと、今のところ怪我人はカーチェイスをした男だけのようです。警察はこのことを公開しないようにといっておりますので、残念ですが公開はしません。謎の男ですね~。現首相のお蔭で平和になったっていうのに、また何か起きるんですかね~~。ね~、藤元さん?」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振っている。
「寒くなってきました。少し暖かくしますよ……。お風呂入りおえたんで湯冷めしそうなんですよ……。その、うーん、と。わかりません……」
藤元の振る棒の回数と同じく。気温が上昇してきたようだ。
「それでは、皆さん。今日はお休みなさー……。あ、今日の運勢は。というか、これからの日本を藤元さんやっぱり教えてください」
藤元の顔にカメラが迫った。
少し鼻毛が伸びているが、それ以外はいたって昔と変わらない。
藤元は、少し大き目の本を取り出した。それを読み始めると、
「う~ん、と……。そうですね~……。今言えるのは、これからこの国は大変なことになるかも知れません。けれども、一人の男によって、救われると読み取れますねー。その人たちにフャイトを送りましょう」
美人のアナウンサーはニッコリとし、
「それでは、皆さん御機嫌よう~~。お休みなさーい」
僕は気が付くと、ヨハの突き出すフォークにあるリンゴの欠片を食べていた。
「やった! やった! やった~~! 雷蔵様が食べてくれました~~」
ヨハが大喜びだった。
僕が寝ようとすると、ヨハがベットの脇の電気スタンドとテレビを消してくれた。
「雷蔵様~。お休みなさ~~い」
僕は大きな欠伸をした。
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