人の持てる力

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「なんだ……泣いているのか……」 「え?」  僕は神のはず。  そう、経済の神のはず。 「泣いているってことは、人間だな……。普通は、ここには人間じゃなくなった泣くこともない人間の出来損ないが集まるのだがな……」  その男は自分の毛布を剥がした。  鋼鉄で覆われた胴体が見えた。 「君は……機械なのか? それとも人間なのか……?」 「俺は海外での戦争でこうなっちまった。あっちが勝ったけどな……」  昔、2040年頃に大きな戦争があった。その生き残りなのだろう。戦争は人を狂わすというが、狂った人は戦争を仕掛けるのだろうか。 「俺もそうさ。戦争のせいでここへ来た」  左側のスキンヘッドはか細い声を発した。 「大砲を腹に食らっても何故か死ななかったようだ。次の日に目が覚めたらこうなっていた。日本に戻ると、大量に人を殺したといわれて戦争裁判でここへ来た。ここで泣くものはもういないと思ったのにな」  髭面が笑って言った。  僕が人間のように泣いているだって?  まさか……。 「俺たちは知らないが、今の日本にはまともな人間がきっと地上には多いんだろう? けれどな、人間は脆いんだ。いつか歯車が狂えば俺たちと同じくなっちまうのさ」   髭の男はニッコリと笑った。 「お前さん。大量に輸血していたな。何をやったのか知らないが、命は大事だぞ」 「……ああ」  僕は神ではないのか……。  一人の弱い人間なのか……。  そうだ今は弱い人間なのは確かだ……。  昔の経済の神の僕は完全に死んだ。  今の僕は何者なのだろうか?  僕は考えるのをやめ決心をした。  僕は腕に巻かれた包帯を外した。  輸血用の点滴も取り外す。  そして、僕は立ち上がった。 「おいおい。お前さん。どこへ行くんだ。そんなにボロボロなのに……」  髭面が心配気な顔を少しだけしたようだ。  スキンヘッドは寝返りをうった。 「命を無駄にしないためさ……。でも、僕自身わからない」  僕は質素なロッカーへ行って、普段着の高級なスーツに着替えると医務室を出た。窓のない白い殺風景な廊下を歩き、椅子に座って眠り込んでいる看守の肩を揺らした。  その先は鉄格子で通路を遮断されていた。 「ふむ……もう食べれません~お姉さん~~焼そばばかりじゃ飽きてしまいます~~」  看守は寝言を言っていたが、起き出して驚いて僕を見つめた。
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