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窓際の洒落たテーブルの一つに河守が座った。
僕はぎこちなく一番上等な酒とグラスを二人分用意した。
「ねえ、提案がるのだけど、あの人たちのことは今は放っておいて、私たちの時間を作りましょうよ。どうせドンパチ賑やかになるのは、一週間後なのだし」
窓の外には、様々なネオンの巨大なテーマパークのようなビルディングも見える。
「まずは、生き返らしてくれて、ありがとう」
「いや……」
僕はまともに河守の顔が見えないで困っていた。
「ちゃんと私を見て……」
「ああ……」
河守は僕の顔を覗いてニッと笑う。
「あなた。凄く強くなったわよ。それに、どう? 多分、もうお金が欲しくならなくなったんじゃない?」
見透かしたような河守の瞳を見つめて、僕は頷いた。
「そう……。やっぱり、あなたは人間なのよ。神なんかじゃない。そう……人間よ」
僕は人間だ……。
今までのことが、僕の視界で走馬灯のように過る。
「頂きます」
河守はグラスのクリュグを一口飲んだ。
「わ、凄く美味しい!!」
「……君のこと。少し話してくれないか?」
僕は赤面した顔を一時気にせず真面目な顔をした。
「ふんふん。私に興味も出てきたとこだし……いいわ。一様話してあげるわね……」
河守はグラスを傾けながら、生い立ちを話してくれた。
「私はA区で生まれたの……。凄く貧乏だったわ……。だから、姉さんと必死に勉強したの。A区ではみんなで協力しないと、生きていけないのよ。だから、物心がつくと近所の人たちとすぐに一緒に働いていたわ。B区の都市開発プロジェクトチームに入ったの。そこでノウハウの管理をしたり。でも、最初は人間性が完全に欠けているプロジェクトだったの。それでね……。大変だったわよ……。私たちA区の人たちは家畜のように働かせられていたわ。お金もないし、高い税金も払わないといけないし……。そこで、私と姉さんはこのままじゃいけないと思ったの。お金のあるB区からたくさんのお金を貰うような職を探そうってね。貧乏で人間性を奪われたA区の生活から脱却するためにね。そして、国からの奨学金で特進学院大学にいって、矢多辺コーポレーションへ入社したの」
「何故、僕を標的にしていた」
河守はくすりと笑って、
「結婚したかったの。でも、雷蔵さんはいつも他の人のこと考えていたから」
僕は一瞬動けなかった。
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