選挙

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 人だかりのある電信柱のない歩道を歩いて、信号機を挟んだ向かいの道路にも警戒したが、お祭り気分の人々は至って微笑みが漏れそうな顔をしていた。  しばらくすると、歩行者天国となった片側三車線道路沿いには、当然、元々白いロープが一本。警備のために腰の辺りに引かれてあり、警備のノウハウがそこへと一斉に並んでいた。演説をする選挙カーが数台緩やかに通り過ぎていく。何台もの車両には、今日出馬した選挙をする男や女が大々的に政策やマニフェストを話し出している。様々な拡声器での演説を聞いていると、あのC区の霧島インダストリー社にいた白いスーツの20代の男が選挙カーの屋根の上で人々に手を大きく振って宣言していた。  その男は興田 道助(みちすけ)という名だった。  興田 守の息子だったのだ。 「皆さん。こんにちは! お年寄りや子供たち。今の時代はその方たちの活躍が耳目を集めています。私の政策のエレクトリック・ダンスでは特にお年寄りやこれからの人々。つまり、これから老後に入る方々にも新しい日本の未来を目指していくことが可能なのです」  人々は耳を静かに傾けていた。   その表情には笑顔が瞬く間に伝染して行った。 「現在。私たち上流階級の半数以上が占めるB区とC区は日本の将来のために、日々の努力を惜しみません。それは、A区のお蔭なのです。A区は今までみんなと支え合い。日々の努めでB区とC区のための援助をしてきました。そうサポート的援助を……。 そして、そのA区に……今よりほんの少し……今よりほんの少しだけ……。B区とC区に力を貸してもらえないでしょうか……? 日本の発展のため……。人々の老後のため……。私たちの政策にはノウハウをより人間に近づけるためのスリー・C・バックアップは必要不可欠なのです。老後の人々には高度なプログラムで支えられたノウハウの援助が必要なのです。そう、社会のためにそのノウハウたちと5千万人のお年寄りのために、どうかA区の方たちにお力添えしてもらいたいのです。A区が元気になればなるほどにB区とC区は元気になります!!  皆様、どうかエレクトリック・ダンスという名の日本の未来の政策のために、清き一票をどうか、どうか、よろしくお願いします!!私の政策には皆様の力が必要です!!」  人々はいつの間にか拍手をしていた。  僕は少しだけ笑った。  さすがに相手は政治家だった。
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