選挙

5/6
前へ
/99ページ
次へ
 金が相当にかかって、国の人間的将来性はあるのだが、国民はそうは思はないかも知れない。 「うーん。確かに今の選挙活動的にはどうかと思うわ。あの宣言では……?」  九尾の狐がコーヒーに口をつけた。 「この選挙で勝たないと、意味はないね……」  原田はお洒落な度なしレンズをハンカチで拭いていた。 「でも、奈々川首相の実力に頼るしかないわ」  河守はニッコリと笑った。 「確かに……」  僕たちに出来ることはここまでか……。  次の日。  云話事放送Bで記者会見の場で晴美さんが退陣していた。 「晴美さん……」  僕は34階のキッチンで朝食を河守と取っている時に、テレビを不安げに観て呟いた。  そして、国民は興田 道助も選んでいたのだ。  選挙では選挙存続期間というのがある。選挙で勝ち続ければ首相になっていられる。任期は廃止されていた。  記者会見の場で、晴美さんの姿が見えなかった。そして、興田 道助がこう宣言した。 「日本の将来性の勝利ですよ。今から新しい政治が行われる……私が首相になったのだから、日本は発展していきます」  新聞記者が質問を浴びせた。 「前奈々川首相(晴美さん)は退陣しましたが、どうしたと思いますか?」  興田 道助がふざけて軽口を言った。 「きっと、前奈々川首相はトイレにいって、時間が掛かったので出てこなかったのですね」  興田首相のセクハラ発言に新聞記者たちから笑い声が聞こえた。  僕は頭にきてテレビを消した。 「きっと、何か起きたわ!」  河守が突発的に電話で首相官邸の夜鶴に掛けた。  原田が上の階からエレベーターでやってきた。 「やっぱりここか。寝室に二人でいたら、どうしようかと思ったよ。テレビで奈々川首相がいなかったから、何か起きたと思ったんだ」  原田は緊迫した顔をして、僕の真向いの席に落ち着いて座った。  河守のコールで、夜鶴が出たようだ。 「え……。トイレから出てこなかった?」  河守が辟易したが、次の言葉を夜鶴が言ったようで、すぐに緊迫した。 「毒?」  僕は見誤った。  毒のことを知っておきながら、警戒することをしなかった。  敵は用意周到だったのだろう。 「食材に微量に混在していた……? それで、晴美さんは?」  河守がすぐさま受話器越しに問うと、 「一命は取り留めた……よかった……」
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加