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「そうです。その方法を使いましょう」
病室にいる私たちが、立ち上がった。
「そう……レースで……」
河守は得心した顔をした。
病室の窓から藤元が入ってきた。どうやら、空を飛んできたようだ。
「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」
藤元が元気だ。
突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。
「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」
どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。
美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。
「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」
マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。
晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。
「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは?
確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと?
老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」
晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。
「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」
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