片思い

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 美人のアナウンサーは真面目な顔付きになると、 「6年前からC区は技術開発を――つまり、簡単にいうとノウハウをより人間に近い存在にすることが出来る技術を、C区は開発をしていたのです――」  美人のアナウンサーの言葉は云話事町放送Bの男性のアナウンサーとほぼ同じセリフだった。 「ふーむ……」  藤元は険しい顔で遥か天空を見つめていた。  空は鉛色の雨雲が覆っていた。丁度、美人のアナウンサーの話も何やら暗い方向へと傾きつつあった。 「暗いですね……よし! 明るくします!」  藤元は慎重に話している美人のアナウンサーの後ろで、神社なんかでお祓いに使う棒を両手で握ると熱心に振り回した。  と、稲光と同時に突然の大雨と雹が降り出した。 「何しやがんだーーー!!」  カメラに向かって話していた美人のアナウンサーは、瞬く間にびしょ濡れになった。 「すいませーん! 失敗みたいですー!!」  藤元がテレビに向かって頭を下げた。  周囲の人たちはマスコミの人たちと一緒に近くの屋根のある歩道へと駆け出し、美人のアナウンサーはピンクのマイクで藤元の頭を刺した。  番組はそこで終わった……。  テレビを消して、僕は会社へと出勤する。  黄色のスポーツカーは、昨日の夜にこの寒さの中でマルカが洗車をしてくれていた。秋も深まるこの季節に、アンジェたちは眠らないし寒さを感じないから特注で揃えた甲斐があった。  僕は駐車場でランボルギーニにイグニッションキーを差した。一段回すとメインスイッチが入り、カーナビなどの電子機器が目を覚ました。更に回すとスターターモーターが回転した。  スポーツカーは回転数は早く落ちる。7000回転すると、その次はガクンと落ちる。  僕はランボルギーニの短い咆哮を聞くと、雹と大雨の中を快適に走り出した。  矢多辺コーポレーションまで、車で約25分だ。これまで遅刻したこともないし、欠勤した時もない。調子が悪い時もないし、病気もしない。  人は僕のことを機械というけれど、違うんだ。僕は神なのだ。  そう経済の神なのだ。  車で走行中に携帯が鳴った。  2062年からB区は、事故さえ起きなければ運転中の携帯電話の使用が許可されていた。けれども、現奈々川首相(晴美さん)が危ないからと禁止した。  僕は軽く舌打ちをして、近くのコインパーキングに車を停車して携帯にでた。私用電話は緊急時しか鳴らないようにしていた。  相手は原田だった。
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