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何故なら、相手は自動車に乗ったノウハウだからだ。
自動車の性能とノウハウの性能と戦わなければならない。
「晴美様~~。大丈夫ですから~~」
ヨハは晴美さんに向かってにっこり微笑んだ。
応援席では人々はこのレースに誰もが熱狂しているが、日本の将来のことを考えている人は少なかった。
藤元が空からやってきた。
「晴美さん。やってきましたよ」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振り、おまじないをした。
「身辺警護は、これで大丈夫。でも、僕もここにいるね」
藤元はそう言うと、応援席からかなり離れた場所にいる美人のアナウンサーに手を振った。
「藤元がオッケーです!! 何のことか解らない人ごめんなさい……」
美人のアナウンサーはピンクのマイク片手に頭を下げる。
「さあ、後3周でこの勝負が決まりますね……」
美人のアナウンサーも緊張してきたようだ。
「うーん。日本の将来がかかっているんだけど、それでも負けるよりは勝ちたい!! そんな気持ちですね。 今までの走りっぷりからみんなの苦労が水の泡なんて考えたくないじゃいですか……。でも、みんなは日本の将来のために走っているんですよね。以上、私だけの感想でした」
4周目。
僕の前には未だフェラーリ F12ベルリネッタがいた。
なんとか追い越さなければならない。冷静さを削るほどのプレッシャーを感じたとき、河守が僕の中で笑った。
心地よい笑いで、僕の口にも自然と笑みが感染した。
僕はコーナーが迫って来たが、微笑んでいた。
アクセルをハーフアクセルにした。文字通りアクセルを半分だけ踏むことだ。減速をして、コーナーでイン側を走った。
相手のフェラーリ F12ベルリネッタも僅かに減速した。
だが、ブレーキング速度がほんの僅か遅らせていた。タイム短縮の手段だが、僕はカーブのところで速度を振り絞った。
フェラーリ F12ベルリネッタはアウト側だが、イン側の僕と並んだ。
フェラーリ F12ベルリネッタがアンダーステアを起こした。アンダーステアとは、車がハンドルを切っても思うより曲がらないことだ。
スローイン・ファストアウト。
コーナーの出口は当然、ストレートだ。
だから、初速をいかに上げるかが勝負だ。
僕はコーナーから出ると、初速を上げた。
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