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晴美さんはゆっくりと目を開けて、夜鶴に支えられながらも立ち上がった。カメラマンの男がその様子を写していると、応援席から大勢の悲鳴が聞こえて来た。
「藤元―!! ヨハの修理は後だ!! 流谷君と津田沼のところへ行ってこーい!!」
美人のアナウンサーはピンクのマイクを振り回した。
「ハイっす!! あれ……? 何か変……?」
飛ぼうとした藤元は不可解な顔で、首を傾げた。
コースアウトした遠山は少しの間。気を失っていた。
芝生の上に足を置いて、車を押そうとしたが、サイドボードにある何かの液体が入った瓶を見て、呟いた。
「栄養ドリンク……か?」
遠山は手を伸ばし一気にそれを飲み下した……。
「遠山さん……頑張って下さい……」
晴美さんは心の中で精一杯のエールを送った。
「遠山さん……」
夜鶴は流谷と津田沼が死んでしまったことで、この勝負は遠山一人に掛かってきたことを知った。
「ねえ、なんか変じゃない?」
河守はコーナーへと戻った遠山の走りが、どこか切羽詰っていることを訝しんだ。
「おや? コースアウトした遠山選手が再びレコードラインへと入りましたね」
竹友の声に、
「ええ、かなり急いでいますね。それもそのはずで、勝負はもうすぐで……?」
「あれ……凄いスピードです!! 遠山選手!! 起死回生か!!」
「どけー!! どけー!!」
遠山はストレート、コーナーなどを瞬く間にクリアしていく。その超絶的ドライビングテクニックは誰もが目を見張るものだった。
遠山は何台ものノウハウが駆使する大型トラックなどを、かわしながらスピードを上げていく。
栄養ドリンクなどではなかった……。
何を隠そう強力な下剤である。
遠山が死ぬほどの便意で狂戦士と化した。
「信じられません!! なんというドライビングテクニックなのでしょう!?」
竹友は幾度もCチームの車を追い抜いて行く遠山のガヤドルを見つめた。
「何が起きたのか解りませんが……あれは常人の域を超えていますね。きっと、日本の将来ために立ち上がったのではないですかね?」
斉藤はストップウオッチを見つめると、唖然とした。
「なんと!! 時速420キロも出ています!!」
「どけーーーー!!」
遠山は早くも6周目に入り、ノウハウのペンズオイルニスモ GT-Rと一騎打ちとなった。
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