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七 -ななー
「いい天気―」
ベランダが見える大きな窓の前で背伸びをすると、窓には私の姿が映る。
「ふむ、今日もいつもと変わらずですなー」
自分自身に言いながら、少しだけ拗ねて見せる。
身長も平均的、やせ形でも太めでもない。しかもぱっちり二重でもない奥二重の、美人でもない平凡な女子の塊とあっては、特徴らしき特徴はないかもしれない。
しいて言えば、右目の下と口元にほくろがついているのはちょっとした特徴になれるかもしれないが、それが足されたからと言って突然美人になる訳でもない。
窓越しに「ま、いつも通りが一番」と言いながら、映った影をつついてもう一度空を眺めれば、窓越しでも感じる日差しの明るさに思わず目を細める。
今日はこんなにいい天気だから掃除でもしよう。ベランダはあいにく彼が花粉症だから布団を干したり、洗濯物を干したりするのは出来ないけれど、こんなに天気がいいと掃除をしたくなるのは仕方ないだろう。
吸引力を示すような大きな機械音を鳴らしながら掃除機をかける。少し離れた所では乾燥機付の洗濯機がごうんごうんと回っているのを聞いていると、それがまるで音楽のように聞こえるから不思議だ。
「~♪」
思わず鼻歌。
と言っても口ずさんでいるのは小さい頃聞いた事があるような童謡ばかりで、それだと流行に乗り遅れているなんて言われるかもしれないが、彼は嬉しそうに聞いているし、私も流行りの歌なんて知らないから、それはそれで別に困っていない。
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