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一般的に保育士は薄給と思われがちだが、昨今の人手不足により私立でも公立でも待遇面は改善されつつある。女性同士の派閥や、男性保育士に対しての風当たりも無くしていく園も増えてきている。
とはいっても、光の働く保育園には派閥もモンペアと呼ばれる危険因子も光を冷ややかな眼差しで見る親もいないし、子どもたちも可愛いので何一つ文句はないのだけれど。けれど光は満足していないし、このままでいいとも思っていない。
「よく分かんねぇけど、金のことなら何とかしてやれるぞ」
ある休日、紹介した手前、様子を見に光の自宅アパートに叔父の陽一郎が訪ねてきた。陽一郎は建築士として成功しているので金銭的に援助してくれるのかと思いきや、“金脈”を紹介するとのこと。
「ま、とりあえず、今度うちでやるホームパーティに来いよ。話はそれからだ」
「……そのパーティって怪しいもんじゃないよね?」
「お前、俺が麻薬パーティか乱交パーティすると思ってんのか? んなわけないだろ。建築士も口コミが大事なんだ、信用失くすことするわけないだろ」
学生時代、女を取っ替え引っ替えしていたと母から聞いていた光の双眸は細くなり、途端、叔父の存在が胡散臭くなった。出した烏龍茶をさっさと飲み干し、とっとと出ていってほしくなった。
「確かに昔は女関係派手だったけど今は真面目に付き合ってるっつーの。前に話しただろ、カフェ店員の彼女がいるって。あの子一筋だし、もういい大人だから怪しいもんに手出すわけねぇだろ」
「そう……?」
その言い方だと、一筋じゃなく、いい大人じゃなかったら怪しいもんに手を出していたと誤解されるのでは? と内心つっこんだ。
とはいえ、根っからの悪い人間ではないので、少しだけならと二つ返事で了解した。
「日にちは二週間後の土曜の夜。詳細は後日連絡するから」
「ねぇ、少しだけヒントくれない? 叔父さんを疑ってるわけじゃないけど、ちょっと、何かなって……」
「ヒントか……そうだな……男なら絶対喜ぶ!」
「それってますます……」
そっち方面では……と漏らしそうになった甥の表情に陽一郎は敢えて触れず、「期待して損はナシ!」と薄い胸を無理矢理にでも張ってアパートを後にした。
見えなくなるまで見送った後、気持ちの切り替えとして鼻から息を漏らし、そのお陰で脳内は「夕飯のメニューは何にするか」でいっぱいになった。
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